14-15.

 ハールバルズの好意によって三魚は元の姿を取り戻し、改めてお礼の言葉を伝える為に彼女達を訪れて

いる。

 元三魚は幸いどこにも怪我はなかったが、元の姿に戻っても魚であった頃の癖が付いてしまっているの

か、時々ヒレを動かすようなしぐさを無意識にやっていたり、何となく魚っぽい顔立ちになっているよう

に見える事もあったりと、どこか魚類をその身に残している。

 おかげで泳ぎも上手くなり、何となくいつもは使わない筋肉も鍛えられたと言って、レイプトなどは満

足そうにしていたし。魚になるという未知の体験を得た事で、クワイエルとハーヴィも満足した。

 彼らはあまり自分達の事、それも終わった事にはこだわらない、ような気がする。

 それに事情を聞けば落ち度は全て彼らにある。そこに魚が居るからといって、当たり前に食べる事を考

える方が本来はおかしいのだから、文句は言えない。

 今までも平気で飲み食いしていた事が多かったし、いつの間にか自然に対して傲慢になっていたようだ。

お前も所詮は我々に食される運命でしかない、とでも言うような。

 声高にそれを主張する人は少ないが、それでも誰にでも心当たりがある事ではないだろうか。

 食べられる物だから食べる。それも自然の欲求であり、全ての生命はそうであるのだから、むしろ結構

な事かもしれないが。油断していると手痛いしっぺ返しを食らうのだという事は、忘れてはならない。

 その理屈からすると、人も当たり前に食べられる事があるという当然の結論にも達する訳だし、うっか

り誰かの腹の中に居た、というような事も起きないとは限らない。

 特にこの大陸においてはそうだ。

 もう一度性根を入れ替え、全てに敬意を払う事を徹底していかなければならない。

 レムーヴァのどこに他種族が居るかは解らないし、何が彼らを傷つけてしまうかも解らない。慎重に慎

重を重ねていく必要がある。

 その種族が彼らに好意を持つか、敵意を抱くかの多くは自分達の行動に関係しているのだから。

 幸い今回は許してくれたから良いが。もし荒々しい種族相手であったとしたら、もっと重大な過ちを起

こしていたとしたら、クワイエル達の命はなかった筈だ。

 今もうっかり何かしでかさないとも言えない。

 注意に注意を重ねて、注意に押し潰されるくらいで丁度良いのかもしれない。

 特にクワイエルは、一生潰されていたとしても、まだ足りないくらいだろうと思われる。



 魔術の泡に身を包み(今度は全員が入れるように大きな泡を一つ創った)、待ってくれているだろうハ

ールバルズの許へ急ぐ。

 ある程度進むと、前と同じように向こう側から引っ張ってくれた。

 申し訳なく思ったが、この方が相手にとっても速くて楽なのかもしれない。クワイエル達は泡を任せ、

素直に運ばれていく。

「無事であったようで何よりだ。まあ、あの場所には貴方達以上の大物はいないが」

 ハールバルズは優しくヒゲを揺らす。まるで笑っているように見えた。

 クワイエル達も優しい気持ちになり、緊張を解く。

 これはどんな魔術よりも素晴らしい魔術だといえた。ルーンを用いて現世に変化を与えなくとも、全て

の生命は生まれながらにして自然界全てに影響を与える力を持っている。

 それが本来のルーンでありその意味だった、のかもしれない。

 究極のルーン、ブランクルーンを求める事も、そう考えれば無意味な事なのだろう。

 その証拠に、クワイエル達ですら、この大陸を進む事でそんなものへの興味は消えてしまっている。そ

んなおおげさなものがなくても、人も、草花も、風も、雲も、水も、土も、毎日当たり前のように奇跡を

生んでいる。

 結局ルーンが魔力、つまり生命を創造する事だとすれば、誰でも当たり前のように行っている。魔術に

頼る必要など、初めからないのだ。

 不可能を可能にする力は、誰でも持っている。

 それにブランクルーンなどを得たとして、それでどうなるというのだろう。神の力そのものを手に入れ

る事ができたとして、それで幸せになれるのだろうか。全ての望みを満たす事が、我々にとって本当に素

晴らしい事なのだろうか。

 困難、不可能を失うと言う事は、何よりも重要なものを奪われると言う事ではないのか。

 本当は魔術自体、必要のないものなのかもしれない。

 とは言いつつ、今も魔術に頼っているのだが。その生命体が本来の生活をしている限り、魔術なんか必

要ないだろう。

 便利になる。だから何だと言うのだろう。力というものがそれだけで済むのなら、誰も苦労していない。

 魔術が人を幸福へ導くなら、至高の英知だというのなら、もう少しましな社会を営んできた筈だ。

 結局、現実の前には夢物語など無力である。それが解っていてやっているのなら、良い趣味になるのか

もしれないが。それに囚われてしまったら、望む道から永遠に遠ざかっていくような気がする。

 巨大なハールバルズに圧倒されつつ、クワイエルはそんな事を考えていた。

 勿論、どの質問からしてみよう、という好奇心も常に在る。

 何をしていたとしても、いつもどこかで好奇心が囁(ささや)いている。それが魔術師という厄介な存

在である。

 この時もクワイエルは感謝の気持ちを伝える事を脇のものにしてしまい、いつの間にか質問の方に集中

してしまっている。

 別に悪意があった訳でも、謝罪の念がなかった訳でもなくて、これは自然とやってしまった事なのだろ

う。そしてそれだからこそ始末に悪く、厄介なのである。

「南からの旅人は、不思議な種族なのだな」

 気の良いハールバルズも、最後には呆れていた。

 大して疲れているようではなかった事が、せめてもの救いかもしれない。

 クワイエルも相手を見て物を言っているとしても、その目算がいつも当たるとは限らない。彼にはどこ

か大雑把な所があるし、こと好奇心という点になると信用ならない。

 ハーヴィ、エルナが目を光らせ、上手く力を貸していたから良かったものの、クワイエルは今にも脱線

しそうなくらい興奮していた。

 もしかしたら鯨好きなのかもしれない。



 ハールバルズによると、南の鎧種、屈強種はクワイエル達が想像していたように、元は一つの種であっ

たらしい。

 一つであった頃は仲良くやっていたはずなのだが、いつの頃からかいがみ合い始め、とうとう二派に分

裂して熾烈(しれつ)な争いを繰り広げるようになった。

 そしてお互いをお互いが憎む余り、或いはそれが分裂した原因だったのか、全く違う姿に自らを作り変

え始め。時を経る度に極端になっていき、今ではその仲も決定的にこじれてしまい、当たり前のように戦

争をするようになった。

 二種の力は常に均衡していて、何度やっても決着がつかない。クワイエル達を巻き込んだ今回の戦いも、

結局は痛み分けに終わっているのだとか。

 いっそどちらかが滅びてしまえば、これ以上争わなくて済むのかもしれないが。お互いに同じように力

を増しながら、争いだけを大きくしている。

 今では意地になっているとしか思えないし、争う事でお互いに何か良い事があるようにも思えないのだ

が。彼らは終わらない戦いをいつまでも続けていたいらしい。同じ過ちを続けていないと、安心できなく

なっているのかもしれない。

 クワイエル達はまるで自分達の事を言われているような気持ちになり、何となく恥ずかしくなった。

 話を聞けば聞く程、どうしても他人事とは思えないのである。

 それでも恥ずかしさを我慢していると、一つ面白い話が聞けた。

 二種と出会う前にあった気味の悪い草原。あれもどちらかの種が原因でできたものらしく。彼らの研究

の結果か、それとも偶然できてしまったのかは知らないが、兵器として使う事で優位に立とうしたものの、

すぐに制御できなくなってあっという間に広がり、今では彼らにもどうにもならなくなっているそうだ。

 その南にある機械地面までは侵食できないようだが、その内屈強種も鎧種もあの草に飲み込まれてしま

うのではないかとハールバルズは言った。

 この世にはどうにもならない勢いというものがある。

 今更何をやっても、あの草を全て枯らす事はできないだろう。

 二種が協力でもすればまた別だが、あの増殖能力と食欲はハールバルズから見ても脅威で、遠くない未

来には誰にも手が付けられなくなるかもしれないとの事。

 骸を喰らう者、フレースヴェルグを思い出す。

 彼女の力で何とかしようとも考えているが、争っている二種が邪魔でそこまで行く事ができないので、

もしかしたら、呼ぶ事になるかもしれない、とも言っていた。

 何を、誰を呼ぶのかは解らないが。ハールバルズ、フィヨルスヴィズよりも圧倒的な力を持つ存在が、

この大陸には居るのかもしれない。

 そういう存在が居る事は今までにも耳にした事がある。クワイエル達が最も気になっている事の一つだ。

 しかしそれ以上聞ける雰囲気ではなくなり。その存在が話に出てから後は質問する事もはばかられ、ク

ワイエル達もこれだけで満足するしかなかった。



 一度は礼を言って引き返したものの、クワイエルにはずっと引っかかっている事がある。

 それは力ある存在の事で、ハールバルズがそれを避けている以上、強引に聞こうとは思わないのだが。

これまでの事を考えても、彼らはあまりにも無力で、これから先に行くにはどうしても力不足だと思えた。

 ハールバルズの力以上の存在。彼女ですらどこか恐れている風である存在が、いずれクワイエル達の前

に立ち塞がったとしたら、どうなるだろう。

 今のままではどうにもならない。死を待つのみだ。

 半分仕方ない事だと諦めても居るし、どれだけ努力してもどうにもならない壁があるのだとしても、今

のままではこれ以上進めない。

 屈強、鎧の二種にしても、あの鎧を運良く使えなかったとしたら、今彼らがどうなっているかは解らな

い。他種族と同等に渡り合える力を持つ事は不可能だとしても、その地を通る事もできないようではどう

にもならない。

 せめて逃げられる、回避できるだけの最低限の魔力を持つ必要があった。

 そこでハールバルズである。

 クワイエルは彼女が優しい事を良い事に、教えを乞おうと考えているのだ。

 真に図々しい、魔術師らしい考えだ。

 ハールバルズはあっさりと了承してくれた。

 彼女も長、つまり種全体の母として導く立場にある。魔術の扱い方を教えたり、失敗して暴走してしま

わないように見守っていたり、知るべき事を教える事も、義務を超えた存在意義として持っている。

 だからという訳ではないが、その優しい性格から断れなかったのか、図々しいお願いを受け容れてくれ

た。多分、クワイエル達を見捨てるのが忍びなかったのだろう。それは彼らが魚化した事とも関わってい

るのかもしれない。

 今のまま進んでも、クワイエル達に未来はない。いや、未来を掴む為の道を歩み続ける事すら不可能だ

ろう。

 思慮深い彼女の事、その程度の未来を見通す事は簡単だ。だから許した。死に逝くしかない命を、もう

少しだけ繋ぎ止める為に。

 それは好意というよりも、やはり義務。力在る者が持たぬ者に対して行うべき義務であった。もしかし

たら多少の同情もあったのかもしれない。

 どちらにしても、クワイエルは踊り出しそうな程喜んでいた。

 ハールバルズが師としてまず命じたのは、魔術に頼るのを止める事。

 簡単に言えば、クワイエル達が包まれていた泡、あの泡の魔術を止め、この湖底に生身で入り、自らの

意志と力で生き抜く事だった。

 魔力を向上させるには、単純に魔術を用いれば良いというものではない。魔力が生命そのものの力であ

るのだから、その生命自身を高めなければならない。

 そしてその器である肉体も。

 どれだけ偉大な力を使えたとしても、それに耐えられるだけの器、体がなければどうにもならない。だ

からこそ全ての生命は長い時間をかけて肉体を改造してきた。より相応しい力を使えるように。

 ルーンという生命は、皆等しく持っている。実はその力に個体差などない。どれも等しき魂である。

 では何が違うのか。何が力の差として現れているのか。その答えは様々な事が言えるかもしれないが、

結局はその肉体だ。器となる肉体が違うから、使える力が違ってくる。

 それは善悪の問題ではなく、精神的な問題ですらなく、単純に物理的な問題。

 生命が本来持つ力を発揮するには、それに耐えられるだけの肉体が必要。

 これは絶対の法であり、誰にもどうする事もできない。

 つまり、魔術を研究し尽くしたとしてもどうにもならない、という事になる。人間の取ってきた方法は、

それがルーンを理解するという事であるなら、初めから間違っていたのだ。

 クワイエル達は絶望を込めて、それを知の限界と呼ぶ事にした。

 そうしなければならない程、魔術師にとって衝撃的な事実だったのである。それは魔術師の今までの、

そしてこれからもしていくだろう永劫の努力を否定されたに等しい。

 そして悪い事に、ハールバルズが言うのだからそれは事実なのである。少なくとも、クワイエル達が辿

り着くような小さな事実ではない。その偉大なる力、時間、知識から導き出される、遥かに現実味のある

答え。

 だがクワイエル達は魔術師。それで諦める事も、絶望する振りで自分に言い訳し続ける事も、愚かに否

定し続ける事もしなかった。

 彼らはその答えを受け入れ、新たな道を模索する。

 それは諦めに近い気持ちではあったが、一番大事な所ではっきりと違う感情だった。

 そしてこの想いに突き動かされるようにして、今までよりもより真剣に学び始めたのである。

 これは学習というようなものでも、修行というようなものでもなかった。自らに宿る生命との戦いであ

る。純粋にこれからを生き抜く為の、そしていつか辿り着けるかもしれない場所へ進む可能性を絶やさな

い為の、自分に与えられた生命の限界に挑戦する戦い。

 それでも今更退くつもりはなかった。

 クワイエル達だけではない。

 クワイエルはゲルに頼み、知の限界を遥か南に居る人間達にも伝えてもらう事にしている。

 ハールや神官長、鬼人の族長達がどう思うかは解らない。多分、自己を否定されたような痛みを伴うも

のを感じるだろう。でもそれでも、彼らには知らせなければならない。それが自分の義務だと考えた。そ

の為にも自分達はレムーヴァを探索してきたのだと。

 この大陸に触れた者なら、この重い事実を受け止められる筈だ。

 この地に来れば、自分というものがいかにちっぽけでつまらない存在であるかを悲しい程に理解させら

れる。誰も否定できない。できるのは受け容れる事か逃げ出す事。

 今までもあるがままに受け容れ、ここに残り、独立さえ果たした者達だ。もしかしたら今更言われなく

ても、とうに解っているのかもしれない。

 クワイエル達がそれを受け容れられたのも、とうにそれを知っていたからではないのか。

 そんな風にも思う。

 自らの弱さを悟った者は、いくら打ちのめされても何度でも立ち上がる。一度折れ、それでも伸び立つ

その心は、挫折など感じない。全てを受け容れ、乗り越えていくのみ。

 だから全員で乗り越えていけると信じた。

 必ず最後まで辿り着けると。

 例えクワイエル達が途上で倒れてしまったとしても、残したものがあれば、必ず後を追う者が出てくる。

 もしかしたらもう出ているのかもしれない。クワイエル達と同じく、途方もない夢を持ちながら、現実

と向き合って進んで行けるような物好きが。

 知の限界を知らせるのもその為の種だ。

 ゲルにその種を託した。それはすぐに届けられるだろう。音そのものである彼女にとって、移動する事

など容易い事。光に次ぐ速さと正確さで伝えてくれる。

 クワイエルは振り返らずに進んで行けばいい。

 どこで死のうと、次世代の種はいつも芽吹き、育っている。

 それが絶えるのは、生命が全て滅亡した時だけだ。

 そんな事は、クワイエルが心配する事ではない。

 彼は彼にできる事をやればいい。

 そうする為に、ここまで来たのだから。



 水に宿る魔力によって、肉体に膨大な負荷が与えられる。

 この湖水にはハールバルズ達から長年発せられ続けられた魔力が、濃密に蓄(たくわ)えられている。

しかしそれは優しく、何者をも受け容れてくれる力だった。

 生命の母である水、それはハールバルズそのものでもある。

 今は特別に魔術によって負荷を操られ、常に限界ぎりぎりにある事を強いられているが、身に触れる水

と魔力波はあたたかく、不思議といつも気持ちは落ち着いている。

 こんな事は初めてかもしれない。誰かに見守られる事、それを受け容れ、自分を預ける事。その心地よ

さ、いつも護られているという安心感は何よりも心強かった。

 その相手がハールバルズなら尚更だ。彼女が居れば、どんな危険も問題にならない。

 そういう意味で彼女は海よりも大きく懐(ふところ)の深い大地を思わせた。大地は海ですら受け止め

ている。この世界を満たすように思える水も、大地の表面を覆っているに過ぎない。

 強く、優しく、誰よりもはっきりとそこに在る。大地とはそんな存在である。

 つまり地にあるものは皆母と言う訳だ。

 魔力は数倍に高められ、それに応じるように肉体も変化している。

 大海の圧力にも耐えられ、激流に揉まれてもものともしない。魔力波、物理的な圧力、その二つをハー

ルバルズは巧みに操り、クワイエル達を鍛(きた)えていった。

 一目見たくらいでは解らないが、皮膚も肉も骨も内臓も他の人間、鬼人を遥かに凌ぐ。それだけを見れ

ばもう別種族だと言ってもいい。

 鎧種、屈強種が同じ所から別れ、全く別種の存在になったように。彼らも同じ所から発して、全く違う

存在になってしまおうとしている。

 それが彼らにとって必ずしも良い事かどうかは解らないが、この大陸を進むには必要な事だった。

 物理的な進化、それこそが道を拓く。

 そこに止まるのなら良いが、更に奥を目指すのであれば、避けては通れない。

 つまりそれがルーンを知る道であり、大陸の最奥に到るたった一つの手段である。

 頭の中だけでは誰も辿り着く事はできない。実際にそこに行く事で、そこに行けるだけの力を得る事で、

初めてそれに触れる事ができる。

 全ての始まり、或いは、大いなる変化の理由に。

 ごみの塊でしかなかったこの大地に形を与え、自然の流れを超えた変化をもたらした。それは一体何者

なのか、何なのか、それともそういう言葉では語れないものが待っているのか。

 変化、それこそレムーヴァが望んでいる、望んできた事。

 だからクワイエル達は現れたのだろう。今居る場所に安定を求めるしかなくなったこの大陸の種の代わ

りに、外から来た彼ら、そしてこの地に生まれてまだ若い彼らが、それをなす。

 それを望んでいるのだとしたら、クワイエルの方としても望む所だった。

 その対価がレムーヴァの秘密なのだから、拒否する理由は無い。彼らは魔術師である。



 クワイエル達は実に一年に及ぶハールバルズとの長い修行を終えた。その間ゲルに連絡役になってもら

い、定期的にハール達と連絡を取ってもいる。

 相変わらず外界の動きは面倒で、一人一人張り倒してやりたくなるくらい憎たらしいが、まあ順調にや

っているようだ。移住者も増え、起こるべき問題も次々に発生しているが、それも珍しいものではない。

こっちは元気にやっているから、そっちも元気にやってくれとの事。

 実にハールらしい言葉だ。例えその言葉がクワイエル達を安心させる為の言葉でしかなかったとしても、

彼らにできる事は何もない。ハールの言う通り、こっちはこっち、あっちはあっちで元気にやるしかない

のだ。

 それを確認できた事で、クワイエル達は決意を新たにする事ができ、ハールバルズに礼を言って旅を再

開する事を決めた。

 今ではもうはっきりと以前の彼らとは違っていた。

 あらゆる器官が強化され、勿論魔力自体も以前とは比較(ひかく)にならない。

 この器なら、奥へ進めそうだ。

 ハールバルズなどに比べればまだまだか細い力、胡麻にも満たない力でも、少しだけ自信を持てている。

 困難を乗り越える為に、自分達はここに来たのだと。

 そしてこれからも乗り越えていけるのだと。

 彼らは北へ足を踏み出す。

 とはいえ、まずは湖を越えないとならないから、踏み出すというよりは泳ぎ出すと言った方が正確なの

だが。まあ、それは置いておこう。




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