2.存在


 あらゆる感覚を失う事。それが死だと考えていた。

 伝え聞く死に際の話はみなそうだ。感覚が消え失せ、それが達した時に自我も消えてしまう。

 しかし本当は違うようだ。

 むしろ感覚ははっきりしている。

 今までになく、強く全ての物を感じる。

 匂い、音、味、そして肌で感じるすべてのもの。それらが強く粟立つように、双一の脳髄を埋めていく。

 目の前にはひしゃげ続ける店番の醜い顔がある。

 元々醜かったそれは、尚更汚く歪む。

 頭から首、腕、腹、腰、そして足。順々に曲がり、ゆっくりと全ての体液を搾り取られる。

 店番に意識があるのか解らないが、口や目が忙しなく動いている所を見ると、感覚が残っているのかも

しれない。

 そこにあるのは純粋な苦痛。地獄の亡者がいれば丁度こんな感じか。

「お、おま・・・・・・」

 そこまで聴こえた(勘違いかもしれないが)瞬間、一気に店番は潰され、肉塊に成り果てた。

 彼の痕跡を残すものは何も無い。誰が見ても、これをあの店番だとは思わないだろう。

 まあいい。死んだ俺には関係のない事。

 全身に生温かい水を感じるのは、雨のせいだ。

 鬱屈する思いを払うように、空を見上げてみる。

 その果てには闇が在った。

 地獄は地の底にあると聞いていたが、本当は天にあるらしい。禍々しい雲が入り口、月がその場所か。

 全てが闇に赤黒く包まれている中、月はいつもより美しく白く輝く。

 そしてその光が強く、強く、双一を満たしていく。

「望みは届けられた」

 そんな声がしたような気がする。

「しかしまだ代償が払われていない」

 どこから聞こえてくるのだろう。

「お前は、自らの影を我らに捧げるか」

 誰かの声に似ている。思い出せないが、よく聞く声だ。

「それとも・・・・」

 その先を聞きたくなかった。解らないが、何よりも不快なものである気がする。

「捧げよう」

 だから耳を塞ぐようにそう告げた。

「その望み、叶えよう。影がそう望むならば」

 双一は見た。自らの影が立ち上がる様を。そしてその影が月を帯び、赤黒く変化していくのを。

「人よ、全てを望むがいい。その願い、叶えよう」

 影は形こそ彼にそっくりだったが、まったく違うものに感じる。

 そして影は変化する。彼と似ても似つかぬあの姿に。

 今の影は彼の物ではない。彼が影の物なのだ。

「まあ、いい。どうせ俺は死んだのだから」

 双一は何もせず、受け容れるように月だけを眺めた。

 異形の影と共に。



 気付いた時、双一は例の場所に立っていた。

 何も変わっていない。雨の匂いもそのままだ。今でも掌から雨粒が染み出てくるような気がする。

 夢だったのか。

 そう思うとそんな気がする。

 しかし地面に目をやると、そこには店番だった物が転がっていた。

 寸分違わず夢で見たのと同じだ。一度見れば忘れる事はない。

 1m程の大きさまで縮んだ赤黒い塊は触るとふにゃふにゃしていて、指で押すだけ中にへこむ。中身が無い

ように思えたが、ある程度まで進むとしっかりと指先に跳ね返ってくる物がある。

 骨か。それとも他の何かか。今となっては区別のしようがない。

 不思議な事に血痕などは一滴も見えなかった。塊が忽然と現れたかのように、他の何物も変化していない。

全て来た時のまま違和感なく彼の目に映る。

 始末しようか迷ったが、こうなってはこれが店番だと示すものは何も無い。放って置いても解らないだろ

う。そしていつ誰が失踪しようと、誰も気にしない。特にこんな場所では。

 といって店番があのピエロの命によって来たのなら、奴らを不審がらせる事にはなる。

 なるべく早く逃げた方が良さそうだ。

 どこに行ってもその支配下から逃れられないとしても、ここに居るよりはいい。

 しかし何故自分は無事でいられるのだろう。

 双一も店番同様に赤黒く染まっていた筈だ。何故自分だけが生きていられるのか。

 いや、もしかしたらここが地獄なのか。

 あの世とこの世が違っていると、誰が証明しただろう。全く同じ、或いはこの世の住人が見えないだけで、

どちらも同じ世界に住んでいたとしても不思議はない。

 確かに自分は死んだ。そう考えれば忽然と塊が現れた事にも納得できる。

 おそらくこの世の側では血塗れの死体があるのだろう。それがこちらの側にくればああいう姿になる。自

分がそうならなかったのは、運が良かったからか。

 その考えが間違いであったとしても、どちらでも良い事だ。とにかく自分はまだ自分の意志で動く事がで

きるのだから。

 逃げよう。きっとこちらの側にも、奴らの手は伸びているはずだ。

 この世とあの世が同じ世界なら、その仕組みが違うと考えるより、同じだと考える方がいい。

 双一は足早にこの場所を去った。

 彼の推測を証明するように、全ての町並みは彼の知るままで、その雰囲気から人の息遣いまでが全く同じ

に見えた。

 同じ建物、同じ人。やはりここはまだこの世なのではないか。

 疑問が浮かぶ。

 何も変わっていない。ここはそのままだ。

「夢でも見ていたのか」

 また解らなくなってきた。はっきりしているのは、一刻も早くこの場所から逃げ出さなければならない事。

 捕まれば、それで終わりだ。

「折角拾った命だ。生かすに限る」

 荷物を取りに戻ろうかという考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。

 まだ夜が明けてない所を見ると、あれからそう長い時間経っていない。だが店番以外にも人が居た可能性

があるし、店から遠い場所じゃない。店番の帰りが遅ければ、誰かを寄越すだろう。

 その程度の慎重さがなければ、その役は務まらないだろうから。

「俺が監視を付けるまでもない下っ端で助かったぜ」

 店番の最後の言葉を思えば、初めから彼を生かしておくつもりではなかった事が解る。

 もしくは二人を闘わせ、勝った方を残す。間引きだったのかもしれない。いや、そこまではいかないか。

あるとしてもただの遊び。

 裸を見せたのと同じだ。どうなってもいい、ただの遊び、その駒。つまらない道具。

「だが、だからこそ生き延びる道がある」

 奴らはとてつもなく強い。だからこそ油断する。取るに足らない存在がどうしようと揺るがないという自

信があるから、神経質にならない。情けないが、下っ端だからこそ双一は今生きていられるのだ。

 組織に勝つ事は不可能だ。でも逃げる事はできるかもしれない。

「さっさと消えよう。もうどこへだっていい。あそこで死んだと思えば、いくらでもどこででも生きていけ

るだろうよ。運が良ければあの塊を俺だと考えてくれるかもしれねぇしな」

 都合の良すぎる考えだとしても、彼はそう思わずにはいられなかった。

 そしてそのままどこにも寄らず、真っ直ぐこの町を出る。

 今なら、きっと間に合う。

 そう、信じて。



 希望を得るには永劫の苦しみ。絶望を得るには一瞬の後悔。

 そんな事は解っているつもりだった。それでもすがったのは、彼もただの人間だったという事だろう。

 解り過ぎる程に解っていた事なのに。

「もうすこし、かしこいと思っていたんだけどねえ」

 目の前にはスーツ姿の美女、そしていつの間にか路地裏の行き止まりに追い込まれている。

 誘われるように、自分から望んでこの場所に現れ。それを望んでいた人間に、微笑みで迎えられる。気分

はまさに狩られる獣。

 彼女はもうピエロの化粧をしていなかった。話し方、雰囲気も少し違う。

 悪戯っぽいような微笑はそのままだが、更に醜悪に禍々しく、それが何故か美しく見える。

「まあ、いいさ。何か得たのだろう。それとも失ったのかい。それを話してみなよ、ネ」

 美女はからかうように笑う。本心から楽しそうに、血の喜びに飢えている。

「・・・・・・」

 双一は色んな事を思い浮かべたが、結局何も出てこなかった。

 自分でも解らない事を、誰かに説明する事はできない。

 ぺてんだか真実だか解らない占いがいつまでもそうであり続けるように、誰にも成否など解らず、そして

それを伝える言葉も初めからありはしない。

 あるのは思い込みと妄想の未来だけ。

 しかし彼女達は違うのだ。

 たった一人で全てと違う。そんな特殊な人間達。

 だからこそ上に立ち、誰も逆らえない。

 そんな者同士が手を結んでいるのだから、逆らえるはずがない。

「どうしたんだい。・・・・・困ったねえ、それじゃあわざわざ出てきた意味がないじゃないか。本当に、

困った子だよ。いとおしいくらいにネ」

 女の指先から何かが飛び出す。

 それは長い長い爪のように見えた。

 そしてそれが見えた時、彼の命は終わっていた。

 鮮血と喉に耐えられない熱さを感じる。

 生温かい液体が伝わり落ちる。これは明らかに死だ。あの時味わえなかった本当の死の瞬間。そうでなけ

れば一体これはなんだと言うのだ。

 それでも双一は安堵していた。これで訳の解らない現実から身を引ける。死んでしまえば追われる事も無

い。全てが済んだのだ。終わったのだ。これこそが救いだ。

 そうに違いない。

「・・・・・もっと早く、こうしときゃ良かったぜ・・・・」

 だが彼を引き止めるように、女から何かに驚くような気配が伝わってきた。

 意図せぬ感情に、彼はもう一度自分を見る。

「・・・・こりゃあ、どういうことだ」

 確かに熱い。しかしそれは痛みではない。

 それに何故自分の声が聞こえる。喉を切られているのだ。声なんか出る訳が無い。

 不思議に思って喉を触ってみると、べっとりと血が付いた。しかしそれは自分のものではないようだ。ど

こも斬られていない。

「あ・・・・あああ・・・・」

 声のした方を見ると、女の片腕が肘の下辺りから無くなっている。その先からしたたっているのは血だろ

うか。むっとする匂いがした。

「な、なんでだ。なんで、このボクが・・・・。まさか、こいつ、こいつが・・・ボクより先に・・・。信

じられない! 信じられない! じゃあ、あれは本当だって言うのか!」

 何が起こったのかさっぱり解らなかったが、逃げるなら今しかない。

「頼むぞ」

 信じてもいない神に祈りながら、双一は懸命に走った。

 女の横を通り過ぎ、尚も走る。

 いつ背後から襲われるか。いつ追いつかれるか。そんな恐怖に泣きそうになりながら、ただただ走った。

 疲労も何も感じなかったのは、そんな感覚を忘れていたからだろう。

 その時は、そう思っていた。



 光を恐れるように暗闇の中を逃れ、ようやく町外れに来た。

 部下が居なかったのは、あの女の自信のせいか。もし囲まれてでもいたら、あの場所から出る事は叶わな

かった。運が良かった。

「ここまでくれば、大丈夫だろう」

 闇を潰すように街中に投げ出された光達も、ここまでは追ってこない。

 普段はあれほど心地よかった夜闇を照らす光達が、今となっては悪魔のように思える。不思議なものだ。

「光なんざ、もう見たくもねぇ」

 それがどれだけ下らない事を言っているのかも解らないように、彼はそう吐き捨てた。

 疲労は感じない。火事場のクソ力というやつだろう。でなければ、これは夢だ。

「でも・・・・これからどこへ行きゃあいいんだ」

 改めて途方に暮れる。

 今までは命があるかどうか解らなかったから迷わずに済んでいたが、こうして助かってみると先の事を嫌

でも考えなくてはならない。

 寝る場所、食い物、飲み物、着る物、何も無い。それらを得る為の金も無い。

 その上、彼は組織のお尋ね者だ。あの女をああした以上、永遠に組織から狙われ続けなければならない。

 裏切り者、それも覆してはならない序列を覆した、最も罪深き裏切り者。絶対的強者であるはずの階層に

属するあの女を、事もあろうに血塗れにしたのだ。取り返しのつかない失態である。

 絶対に組織は彼を許さない。

「ただ逃げられりゃあ良かったのに・・・・、何で、何であんな事になった・・・・」

 草むらに身を投げ、うんざりと考える。

 解らない、何も。

 思い出せない、何も。

「ああ、この暗闇の中に、溶けてしまえりゃあ、どんなにいいか」

 その時だった。双一の脳髄にずっとのしかかってきたものがある。

「(・・・・それが、望みか・・・・)」

 脳を直接揺さぶられる、それははっきりとした声。

 自分の声に最も似ていて、最も似ていない。そんな奇妙な声。自分を塗り潰していく、自分ではない自分

の声だ。

「な、なんだってんだ」

 しかし痛みはない。存在を削られていく恐怖は感じるが、痛みは無い。そんなものはもう不用だとでも言

うように、疲労同様感じないのである。

「(・・・望みを言え、はっきりとだ。全て、叶えてやろう・・・・)」

 再び脳髄を揺らす。今度はもうごまかしようがない。聞こえるのだ、はっきりと。

「て、てめぇは誰だッ」

「(・・・・・望みを、言え・・・・・)」

 何も答えない。ただ、何度も何度もそう告げてくる。

 諦めた双一は、その望みを認める事にした。

 これ以上構っていられない。

 しかし、それが彼の転機となった。正確にはそれをようやく自覚したというべきだが。

「ぐむっ」

 突然影が彼の全身をすくうように包み、影の中へ落とした。

 彼は暗闇そのものと同化し、草木や風と同じ存在になった。

 闇の中に息苦しさは感じない。最初こそ驚いたが、慣れてくると快適に思えてくる。人目につく光の中よ

りも、影の中の方が自分には似合っている。そう自覚したのかもしれない。

 その心地よさ。影に護られる心地よさは今まで感じた事の無いものだった。こんな感覚があるのなら、生

きているのも悪くない。そう思えるくらいに。

「ああ・・・・・、これが・・・生きるって事か・・・」

 影に埋まりながら、双一は誰よりも幸福だった。



 至福の時は朝日が昇ると共に失われる。

 彼が居る暗闇は全て取り払われてしまった。

 光が差した瞬間。それを恐れるように影は双一を捨てて逃げ出した。

 脳髄の奥で悲鳴が聞こえたような気がする。

「ああ、なんだってんだよ・・・くそったれが・・・」

 寝ぼけたような頭が覚めてくると、今の状況を思い出す。

「おい・・・・おい、どうしたってんだ。これじゃあ見付かっちまう」

 しかしもう誰も応えてはくれない。虚しい独り言が草木に吸い込まれていくだけだ。

「と、ともかく、早く逃げねぇと」

 幸い、追っ手の姿は見えない。

 一晩かかっても見付けられなかったから、この付近には居ないと踏んだのかもしれない。

 だとすると。

「かえって、中の方が安全か」

 双一は何も感じない肉体を起こし、影を縫うようにして薄暗い場所を探した。

 この町で最も暗い場所。そこに自分の居場所があると信じて。

 相応しい場所は程無く見付かる。

 家と家の間、隙間の奥、その奥にあった貯蔵庫。この中なら誰も来ない。

 鍵でもかかっていたはずだが、容易く開いた。運良く閉め忘れていたのか。

 まあ、なんでもいい。

「ここなら食い物も、酒だってあるぜ」

 安っぽいワインにジャガイモの塊、そんな物でも今の双一にはご馳走だ。生でかぶりつき、遠慮なくワイ

ンを飲んだ。

 コルク抜きも要らなかった。軽く手で引っ張れば、簡単に抜ける。

「水みてぇな純度だが、まあ、しかたねえ」

 いくら飲んでも酔えそうにない。いっそ酔っ払いでもすれば楽になると思ったのだが、こんな所に置いて

ある酒だ、贅沢は言えない。

 ジャガイモにも飽きてきたので、置いてあったチーズに手を伸ばす。

 いくら食べても満腹にならない。いくら飲んでも満たされない。

 考えてみると飢餓感のようなものすら無かった。飲もうが食べようが何も変わらない気がする。味もしな

い。酔えもしない。

 その味気なさが初めは癖になるのだが、すぐに飽きてくる。

「ちっ、俺も贅沢になったもんだぜ」

 組織の金で好きに飲み食いできていたせいで、舌が肥えてしまったのだろう。

「もう、寝るか」

 面倒になって放り捨てる。

 他にする事も無い。後は一週間くらい潜伏し、脱出するだけ。

 一週間見付からずに済むかは運次第だが、分の悪い賭けじゃない。あのピエロ女から逃げる事を思えば、

馬鹿馬鹿しい程簡単だ。

「せいぜい、ゆっくりしてやろう」

 姿が見えないよう手近にあった物で身を隠し、双一はほっとした気持ちで目をつぶった。

「・・・・・・・・・」

 しかし全く眠気がこない。むしろ闇の中で益々目が冴えてくる。

 窓も無く、光の一切通らないこの場所は酷く心地よく、体に活力を与えてくれる。

 心が高ぶり、静かに寝ている事なんてできそうにない。

「どうしたってんだ。さっきはあれだけ心細かったってのに」

 安堵感が彼の全身を満たす。光の無い世界が、これほどに心地よいとは。

 このまま闇に溶けてしまえたら、どんなに幸せだろう。

「ああ、この闇と共に眠れたら・・・・」

 その時ずしりと脳髄に響くものがあった。

「(・・・・それが望みか・・・・・)」

 彼は当然のように返す。

「ああ、それが望みだ」

「(ならば、叶えよう)」

 再び影がすっぽりと彼の全身を包み、全てを闇に落とした。

 その心地よさは例えようもなく、母に抱かれる赤子のように、不安のない顔のまま、永劫に満ちた。



 それから一月もの間、双一は貯蔵庫で過ごした。

 その間何も食べず、飲まなかったが、全く支障はない。

 ただ闇さえあれば良いのだとでも言うように、それだけで満足だった。

 しかしその状態が解けた後は、そうなる前にやったようにがむしゃらに食い、飲んだ。そうする事が人の

義務であるとでも叫ぶかのように、大いにやった。

 その虚しさは彼自身が誰よりも感じていたようだが。

 薄々感付いてもいた。これは普通ではない。自分はもう、当たり前の人間ではないのだと。

「おい・・・・おい・・・・」

 その答えを追うべく、脳に語りかけてみるが、全ての問いかけ、疑問は無視される。

 それが望みだと言ってさえ、何も返ってこない。

 諦めるしかなかった。

「ちっ、一体なんだってんだ・・・」

 仕方ないので別の事を試してみる。

「俺の顔を変えてくれ。勿論、ずっとじゃねえ。今だけだ。変装させてくれ。この影でよ」

「(その望み、叶えよう)」

 瞬間、ぬっと生えてきた影が頭部に巻きつき、何かが顔中を這い回るのを感じた。

 それが不思議と心地よく、ぼうっと終わるのを待つ。

 数秒と経たない間に全ての作業が終わり、別人が誕生した。四、五十の初老の人物で、双一とは似ても似

つかない。

 首から下はそのままなので注意深く観察すれば気付かれるかもしれないが、普通にしている限り、まず解

らないだろう。

「へえ、こりゃあすげぇもんだ」

 双一は両手で自分の顔をさわり、変わっている事を確認した。手触りで解るくらいだから、ちょっと見た

くらいでは解らないだろう。

「しばらくはこの面でやってみるか。まあ、何とかなるだろう」

 この町が今どういう状態にあるのかが気になる。さりげなく情報を集めながら、準備を整えよう。

 闇の中に居る限り、彼に怖いものは無い。




BACKEXITNEXT