準神威の一撃

続雷神戦

　ロンの右手に握られたモノが静かに変貌していく。細く伸び、先端は研ぎ澄まされ、鋭く鋭く明かり

に煌く。

「・・・キメラ・・・・排除する・・・排除する・・」

　その無機物のようになった表情からは、低い声が漏れる。まるでただ怨念をぶつける怨神にでもなっ

たかのように。静かに、ただ暗く真っ黒に変色するほどに。

　そして刃となった右手のモノを胸元へ掲げ、唱える。

「・・・対一種殲滅・・・グングニル・・」

　煌く光が形となり、一本の長槍へと昇華された。

「化粧の者よ・・・、この時を・・・この時を待っておったぞ！」

　対するインドラは感極まれりと言った風に咆哮を上げた。両腕に握られた、ヴァジュラと槍が反応す

るかのように発光し始めた。そしてそれは徐々に増して行き、バリバリと空を切裂くような怪音を巻き

起こしながら雷へと強化される。

　インドラの身体全体からも眩いばかりに発電され、雷を纏ったと言うよりは雷となったような印象を

受ける。床が徐々に焦げ始めている。

「我の真なる一撃を受けるが良い！！」

　雷の塊となった槍をロンへと投げ放った。

　紫電一閃。残像すら残らぬ速度でロンへと一直に襲い掛かる。

「・・・・トールハンマー・・起動・・」

　しかしその雷槍は一瞬熱い程の雷光を放ったグングニルによって容易く叩き落されてしまう。だが、

それだけでは済まなかった。

「フハハハハ、この一瞬を待っていたのだ！！」

　いつ間にかインドラがそこに居た。ロンの、そう手を伸ばせば届きそうな距離に。

「これが我の真なる一撃！受けよ、全てを打ち砕くヴァジュラの一撃を！！ヌオオオオオオオオッ！！！」

　そして振り上げた二対の腕を振り下ろす。

「いかん！！皆、耳を押え、目を閉じろッ！！」

　そんなギルガの声も誰かに届いたかどうか。

　キンと澄んだ音色がした。

　一瞬の空白の後、空間が弾けた。弾けたとしか言いようが無い。空間が歪み、その中で何者かが暴れ

ているかのように次々と膨張し、そして最後にそれら全てが光へと転化する。

　耳が殺ぎ落とされるような轟音が圧縮するかのように幾層も積み重なり、最早光とも言えない程の膨

大なエネルギーがヴァジュラより放出、波のように伸縮を繰り返し、最後に音にならない光にもならな

い何かがそこから噴出した。

　五感が消え去りそうな、真っ白な波動が突風のように駆け巡る。

「・・・・・・・・！！？」

「・・・・・・・！！！！！」

「・・・・・？？？？」

「！！！！！！？？？？？」

　人間達は自我を維持してている、大切な何かが消え去るような錯覚を覚え。しかし消え去りそうにな

る心をそれを超えた痛みが、いや痛みすら超えた熱さがそれを呼び戻した。ただ、その焼き切れそうに

なる感覚も、二度目だった事が幸いした。

　人間四人は何とか目を開けた。不思議と視界も身体の感覚も無事なようだ、見える、聴こえる、感じ

とれる。

　ただ、脳が酔っていた。感覚がぐるぐると回る。処理しきれない情報が、脳内を舞っているような。

　そして全員がハッと気付いたかのように、暴発の中心点を振り返った。

「ば、馬鹿な・・・神威の一撃ぞ・・。我の真なる一撃は、神の精神すら砕く一撃のはずだ・・・何故

だ・・・なんだ貴様は・・・いや、何が貴様なのだ！！？」

　そこには虚ろに狼狽する巨神の姿が在った。そして更に虚ろに・・しかし確かに巨神を射抜く青年の

儚い程小さな姿が、ただ静かにいつも通り佇んでいた。

BACK・ EXIT・ NEXT