復讐鬼

最後の守神

　脳裏にインプットして来た図面を参考にしながら通路をひた走る。ミドガルズオルムへの道は比較的

簡単ではあった。ただ、下へ下へと降りて行けば良い。

　キメラ王の居る場所はおそらく大規模な実験室か何かに利用されていたに違い無い。広大な洞窟が都

市一面を覆うような規模で存在し、下へ行けば必ずその場所に行くように設計されている。言わば、キ

メラ王を創る為だけにここに都市が造られたと言っても良いかも知れないが。キメラ王が生まれる国家

崩壊前まではキメラ達の特殊能力を試す為に利用されていただろう。地下以外に秘密裏に大規模な実験

が出来る場所など在り得ないのだから。

　この天然の大洞窟はしかし、その規模に反して落盤すると言う危険性も皆無であった。キメラ鋼の元

になったと言う、恐るべき強度の鉱石が多量に含まれており。いや、この洞窟が巨大なその鉱石の一塊

を刳り貫いたモノと言っても過言では無いかも知れない。それによって、これは何者かの手によるもの

では無いかと推測されたのだが。古今そう言った記録は残っていない。

　言ってみればこの研究所は、訳の解らないモノの上で訳の解らない研究をしていたのだが。まあ、そ

んな事はどうでも良い事である。

　ともかくも、下へ下へと行けばそこにキメラ王ミドガルズオルムが居るのである。

「さあ、急げ急げ！！」

　そしてギルガはとにかく走りに走った。息は乱れ、疲労は溜まっていくが、そんなものを気にしては

いられない。ようやくここまで来たのだ、最早立ち止まる事は考えられない。そして立ち止まれば、お

そらく恐怖に摂り付かれてしまう。最も強大で、最も畏怖すべきキメラがそこに居るのだから。

「勝算は・・・」

　ギルガはちらりとロンを見た。

「？？」

　ロンはぱちくりと目を瞬かせる。

「この小僧が果たしてどれほどなのか・・・。希望はそれだけか・・」

　そう考えると少し心細くもある。たった一つの希望、だがそれはとても大きくもある。ベヒーモス戦

で見せたあの力があれば、どんなに強大なキメラにも引けは取らないだろう。それは希望的観測かも知

れない。でも、ギルガには不思議な確信に似たモノがあった。ロンは必ずミドガルズオルムを凌駕出来

ると。

「小僧、もたもたするな！」

「は、はいッ！」

　しかしギルガが吐き出した言葉は心中とは別のものだった。負けず嫌いからだったのか、それとも誉

めるのは照れくさかったのかも知れない。

　そんな風に言葉少なに五人が降りていく。

　どれほどの階段を下りただろうか、足がぱんぱんになり疲労で弾けそうな程になりながら、ようやく

この施設の最下層らしき大広間に辿り着いた。

　この階層がまるまる一つの部屋として設計されているらしい。地下の大空洞程では無いにしても、こ

う広いとなかなか壮観なモノだった。天井も他より更に高い。

　そしてそんな大室の丁度中心に、聳え立つように一つの大影が見えた。二本の腕を静かに組み、残る

二本の腕にはヴァジュラと槍を握っている。

「再び見える日を待っていたぞ、化粧の者よ」

　そしてゆっくりと組んでいた腕を解く。四本の腕に赤褐色の身体、そしてそれを覆う黄金の鎧。

「インドラめ、まだ生きてやがったのか！」

　ギルガが怒りに燃えた目で叫ぶ。忘れもしない、このキメラのおかげでいったいどれだけの死傷者が

出た事か。

　しかし、そんなギルガにもインドラは見向きもしない。ただ一人だけを睨みつけていた。消し飛ばさ

れたはずの左上半身は再生したのだろう、以前降臨したままの姿で仁王立ちしている。

「王に見えたければ、我と闘え！」

　その声に応じるかのように、ロンがするすると前に出た。握り締める棒状のモノがふるふると微かに

震え始めている。そう、いつものように、何かを目覚めさせるかのように。そして彼は呼応するかのよ

うに静かに変わっていく。

　人間達はそれをただ見守る事しか出来なかった。自分達の無力さが、ただ歯痒い。

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