前線復帰

帰還と再生

「ほら、さっさと小僧を引っ張りだすぞ！」

　ギルガの怒声に今気付いたようにレイとギルが駆け寄る。ミルドは床のガラクタを片付け、何とか人

一人が寝転べるだけのスペースを確保した。

　そしてその上に水槽の残骸から引っ張り出されたロンが寝かせられる。

　不思議な事に髪も服もすっかり乾いていた。まるでまったく濡れて無かったかのように。ただ、右手

に握られている棒状のモノにだけ、水槽に居たと言う名残が残されていた。水滴を纏うかのように。

「どうでえ？」

　駆け寄り、呼吸などを確かめているミルドにギルガが問い掛ける。

「体温はあるみたいですが・・・・・呼吸と脈が・・・」

　ミルドは泣きそうな顔になりながら、急いで人工呼吸に入った。その魅力的な唇で覆うように口付け、

必至に息を吹き込んでいる。

「ロンくん！ロンくん！」

　そしてロンの頬を叩きながら叫ぶように名を呼ぶ。ロンの手の棒状のモノが震えるように動いた事に、

誰か気付いただろうか。

「ん、うーん・・・」

　すると呆気なくロンの目が開き、その唇から溜息にも似た声が漏れた。そしてむくりと起き上がり。

「あれ、皆さんどうしたのですか？」

　あの赤子のような無垢な目で問い掛ける。

　まるで緊張感の無いその姿に、暫し時が止まったように皆が黙り込む。そして逸早く戻ったミルドが

ロンを思いっきり抱き締めた。

「良かった・・・・良かったわ・・」

　それにもロンはただ目をぱちくりとさせるのみで、不思議そうにキョロキョロと周りを見回している。

「まったく、相変わらず変な小僧だな」

　ギルガは嘆くように呟いたが、しかし目は笑っていた。レイとギルは何かで胸がいっぱいになったら

しく、ただにこやかにそれを見詰めていた。ほんの少し羨ましそうに。

「ともかく、感動の再会シーンをやっている暇は無えからな。そう言うのは帰ってからにしろ」

　しばらく見守っていたギルガも痺れを切らしたらしく、ずかずかとムードとか言うのとは対極の歩調

で近寄り、引き剥がすようにロンを引っ張り起こした。

「いいか小僧。わし達はこれからミドガルズオルムの下へ向かう、お前もついて来い」

　そして睨むようにそう言った後、押し上げるように立たせて。

「よし、お前等とっとと行くぞ！」

　そう言って、扉を駆け出て行った。

　皆、慌ててその後を追う。　

「はは、久しぶり、ロン」

　苦笑しながらレイがロンの側に寄る。

「何だか知りませんが、相変わらずみたいですね」

　ロンも苦笑混じりに返した。

「そう、俺達は相変わらず」

　ギルもロンの側を固めるように近寄る。

「とにかく急がないと、ギルガさんは足が速いから」

　ロンは笑顔で応え、スピードを速めた。

　それを後ろでミルドが何だか嬉しそうに、優しい眼で眺めていた。

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