真王降臨

破壊王ギルガ

　それからミルドとレイが懸命に作業を続け、ミーミル内のデータをなぞるくらいは出来たのだが、肝

心の室内のシステムへ進入する事は出来なかった。オーディンは執拗な性格らしく、一々にパスワード

が設定されていて、これはもうどうしようも無かった。すべてはこのキメラの頭の中だけに秘められて

いたのだろう。

　ただ、室外のシステムと室内でも操作だけする分には問題無く動かす事が出来た。元々この施設内へ

の人間の侵入など考えてもいなかったのだろう。オーディンの研究に関するもの以外のセキュリティは

割りと大雑把なものだった。

「なにも無えな・・・ギルよ、そっちはどうだ？」

「こちらも何も・・・・。ギルガさん、やはり何かに残してはいないのだと思います」

「うーむ」

　ギルガ達の方も隅々まで探して見たのだが、結局実のある物は何も見付からなかった。見付かった物

と言えば、訳の解らない鉄くずと機械の残骸らしきもの。後は折れた机や砕けた椅子等、おそらく怒り

に任せて叩き壊しでもしたのだろう。

「ミルド、そっちはどうだ？」

　こちらは諦めて、ギルガは改めてミルドに問うた。

「駄目です・・・、何とかこの施設内の警備システムとキメラ製造システムは止める事が出来たのです

が・・・・。この室内の事に関しては・・・どうする事も・・・・」

　そう言ってミルドは哀しそうに目を落とす。隣のレイもすまなそうに項垂れていた。

「いや、警備システムやらを止められただけでも上等よ。しかし、どうするか・・・。このまま粘って

も仕方ねえし、オーディンももう消えちまったしな・・」

　ギルガは腕組みをして座り込む。他の三人は無駄だと悟りつつも、それでも諦める事無くそれぞれの

作業を再開させた。

　そして更に少しばかりの時が流れた。

　依然、進展は見えず。焦りの転化した苛立ちが各々の心を染め変えていく。リック達はもう壊滅させ

られたのではないかと言う不安も浮かぶ。

「くそったれ！一か八かだ、そこをどけ！」

　吹き上がるような勢いで立ち上がりつつ、ギルガはミルドとレイに向けて怒鳴った。二人は困惑しつ

つもミーミルから離れる。

「つあああああああッ！！！」

　するといきなりギルガは背中の長刀を抜き放って跳び上がり、気合と共にミーミルに向けて一刀両断

に振り下ろした。刀身がモニターを突き抜け、その奥の中枢部分をもぶち破る。そしてミーミルは悲鳴

にも似た警告音を発して小さく爆発、慌てて下がったギルガを追うように無残に部品が飛び散って行っ

た。そしてミーミルは完全に沈黙、その機能を停止した。

　次々と電力供給が切断されていき、明るい程だった室内も薄暗くなってしまった。おそらく施設内の

全てのシステムは停止しただろう。

　ギルガ以外の三人はギルガを呆然を眺めている。レイの口はパクパクと声も無く虚しく開閉を繰り返

していた。

「な、なんて事をッ！！」

　そして今気付いたように一斉に大声で叫んだ。しかしギルガは冷静に答える。

「見ろ、あの水槽も静かになったぜ」

　確かに水槽も沈黙しているが。このままでは・・・・。

「ろ、ロンがッ！？」

　レイが耐え切れず、尚も叫び声を上げた。

「うるせえ、こうすれば良いのよ！！」

　そう言うとギルガは再び長刀を振り翳し、件の水槽へと叩き付けた。水槽に一筋の切れ目が入り、そ

れが流れるように伸びた後、煌く高音と共に粉々に粉砕した。金属片がキラキラと薄明かりを反射しな

がら落ちて行く。そして盛大な金属音を一斉に奏でた後、再び静けさに包まれた。

　ギルガは満足したように頷く。水槽を水槽たらしめていた水も全て抜け、そこには蹲ったロンが尚、

眠るように鎮座している。

　他三名は依然呆けたように、或いは肝を抜かれたように、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

　いつもは仏頂面のギルガだけが微笑んでいる。

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