名残消

霧散

　それはヴァジュラの一撃のような広範囲に撃ち渡るモノでは無かった。拠点壊滅を目的として創られ

たインドラの一撃では無く。ただ身を滅ぼしてでも、ただ一人を滅ぼそうとする、いや共に滅ぼうとす

るモノだったからだろう。

　雷弾と化したインドラは、自らの命を雷へと転化させながらロンへと突進する。それは死地へと向か

っているに等しいのだが、それは今のインドラにとって愉悦以外の何物でも無かった。

「クハハハハハハハ、滅べ、消えろ、共に滅せ！！」

　切裂くような狂笑を撒き散らすインドラを前に、しかしロンは小揺るぎもしない。と言うよりは、や

はり何も認識出来ていないようにも思える。表情は虚ろで、挙動は素早いが不審。まったく生と言う熱

さを感じさせない。

　ロンはゆらりと今や雷の塊となった手の槍をインドラへ向ける。そして軽く、ふわりと前に突き出し

た。

「そのようなか細い棒で一体何が出来る！！」

　嘲るようなインドラと合わさるようにその雷槍が激突した。

　一瞬、音が消えた。そしてバチッと言うやけに物足りない音が聴こえて来たかと思うと、それが意識

を戻したかのように、急激に轟音が耳に響いた。両手で塞ぐ人間達を嘲笑うかのように、それは染み渡

るようにゆっくりと、しかし確かに入り。脳を再びかき回すかのように一頻り暴れまわった。

　今までよりも弱い音ではあったが、それでも五感から血が噴き出そうな感覚に、人間達は声も出ない。

「ククク、皆滅ぶが良い！！フハハハハハハハッハハハ！！！！」

　インドラは破滅の快楽に身を沈め。高らかに哄笑を宣言する。

　しかしそこまでだった。

　凌ぎ合うように鬩ぎ合っていた二つの雷の抵抗が、すっと揺らぎ薄れ。そこから静かにロンの槍が差

し込まれた。

　その槍は何の抵抗も無く、そのままインドラを突き刺した。

「ンア！！？？」

　驚きにインドラの顔が歪む。両目が何が起こったのか解らないと言うように、貫くように身体に突き

刺さっている槍を眺める。それでも尚理解出来ないと言う風に、呆然と思考は止まる。

「・・・・キメラは・・滅せ・・・」

　まるで呪文でも唱えるように静かに、それでいて厳かな声ならぬ声を洩らし。ロンはそこから抜き放

つようにゆらりと槍を上げた。

　槍は何の躊躇いも無く進み、呆気なくインドラの雷体を両断する。

　インドラは疑問を浮かべたまま、壊れたおもちゃのように、何の感慨も見せず。ただ二つに分かれ、

床へ落ち、張り裂けるように氷が落ちたように綺麗に霧散して消えた。跡に静電気のような、微かな光

電の欠片を残して。

　光が弾けている。花火のように綺麗でも、印象深いものでも無く。薄れて行くだけの存在だったが、

不思議と目に焼きついた。それはインドラの命の残り火だったかも知れない。

　そして今までの騒々しさを振り払うかのように、場には静けさだけが残った。

「・・・・キメラ殲滅・・・完了・・」

　ロンから零れ出る声ならぬ声だけが響く。高らかな勝鬨の声では無く、淡々としたものだったが。

　人間達は頭を振り払いながら、ゆっくりと立ち上がった。

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