真の姿は

本質

　そして変質を終えた、ロンが静かに踏み出でる。

　ミドガルズオルムの巨体にも怯む事が無く、身体が浮き上がる程の振動にも微動だにせず。あらゆる

モノから隔離された、世界の中のただ一つであるかのように。

「・・・・最終目標・・・ミドガルズオルム確認・・・排除する・・」

「貴様は所詮はロキの道具に過ぎぬ。我らが言葉にも耳を貸さず、与えられしままに動く者よ。忌まわ

しき兵器ロンギヌス」

　ミドガルズオルムの紅い眼が視界を覆う。その光景の中に居ると、鮮血の中に漂っているような奇妙

な感覚に襲われる。勿論、今のロンにはそんな感覚等は無いのだろうが。

　人間は別だ。

「わし達は下がるぞ！！ここに居ても邪魔になる！！」

　ギルガの命により人間達は慌しく入り口へと戻り始めた。ただ、如何にも揺れが激しく、とても足元

が覚束無い。

「うわわわわッ！？」

「レイ、こっちだ」

　転倒しそうになったレイをギルが無理矢理引っ張り起こす。

「ミルド、急げ！」

「はい、ギルガさん」

「しかし、起き上がるだけでこれかよ」

　震える視界の先に眼一杯の黒。離れても離れても視界が埋まる。身震いするだけで、ベヒーモスの地

震クラスはあるのでは無いかとすら思う。この場所ならば天井が崩れると言う事は無いと思うが、それ

も希望的観測に過ぎない。ただ、どちらにしても。

「もう、逃げ場は無いですね・・・・」

　ミルドが不安げにロンを見ながら呟く。

　揺れが落ち着いてきたようだ。しかしこれからの激闘を考えると、こんなものでは済まない事は容易

に想像が出来る。

「おい、武器の準備だけはしておけよ！」

　取りあえず、ギルガはそれだけを伝えた。もう後は見守るしかない、人外の最終決戦を。

「リック達も無事なら良いが・・・」

　ふとそんな事が思い浮かぶ。激闘は此処だけでは無い。だが、人類の存亡はこの一戦にかかっている。

ロンが敗れたその時は、ミドガルズオルムにせめて一矢報いて共に死のう。ギルガは決意を込めるかの

ように、拳を握りしめた。

「ロンギヌス・・・・見せてみよ、我等を滅ぼす力とやらを」

　どす黒い殺気がミドガルズオルムの口から言葉と共に吐き出される。そこには最早明確な殺意しか無

く、正しくキメラ王に相応しい姿であった。

「対一種殲滅・・・・グングニル・・」

　ロンの持つ槍に光が宿り、それが引き絞るように研ぎ澄まされる。そして見る間に一本の長槍となり

煌くモノが刀身に灯る。

「トールハンマー・・・起動・・・」

　光は更に強まり、はみ出た煌きが大気を貫く。バリバリと甲高い発音を奏でながら、徐々にその光が

雷へと転化していく。

　そして見る間に雷は大きく膨れ上がり、そして急激に萎むようにその全てが槍先へと取り込まれた。

　それからロンは静かにそれを振り翳し、グンと投げ放った。

　雷槍は光の帯をロンの右手に残しつつ、ミドガルズオルムへ向かって凄まじい速度で飛襲する。

「愚か者めが」

　嘲りの声を上げながら、ミドガルズオルムの口が大きく開かれていく。

BACK・ EXIT・ NEXT