抗えぬ絶大なモノ

劫火

　ミドガルズオルムの開かれた大口の奥に何かが灯る。それはポッ、ポッと増えていき。やがて口内を

覆い尽くす程に膨れ上がった。冥府の業火のように赤々と燃え盛る。

　そして抑え切れないようになったその炎が、その大口から零れるように吐き出された。

　瞬間、視界全てが赤く染まる。夕焼けのよりも遥かに朱く、そして何よりも熱い。

　まるで火山の噴火のような炎は空中で飛来しつつある雷槍とぶつかる。そして相殺し合うようにそれ

らは凌ぎ合い、喰らい合う。音も無く、ただ力だけがぶつかりあい。一瞬膨れ上がったものが爆発する

ような閃光の後、静かに沈静していった。

　力を失った雷槍が静かに失墜して行く。

「それがオーディンより奪い去り、インドラをも滅したグングニルの一撃か、片腹痛い」

　ミドガルズオルムは尚も嘲るように笑う。

　しかしロンは何も感じていないかのような無表情で、静かにグングニルを光帯で手繰り寄せる。風を

切りながら槍はその手元に再び納まった。

　そして胸前にゆっくりと掲げ、念じるように呟く。

「対局地壊滅・・・・ゲイボルグ・・」

　すると槍がそれに呼応するが如く、うごうごと蠢き、槍先が開いて長大な刀身が殻を突き破るように

現れた。そして柄も合わせるように肥大し、十字型の大槍へとその姿を変える。

　ロンは体長よりも大きいであろうその大槍を軽々と振り回し、槍先を目標へと構えた。

「次はベヒーモスを滅ぼした熱槍か・・・・無駄な事よ・・ロンギヌス」

　ミドガルズオルムの口奥に再び炎が灯っていく。

「・・・・タスラム・・・起動・・」

　ロンの槍から炎が噴出し、それが球型に全身を覆う。そして正しく弾丸のようにその場からミドガル

ズオルムへ向け、弾け飛んだ。

　熱球と化したロンが大気を焦がしながら突き進む。

「！！！！！！！」

　音にならない音を上げ、ミドガルズオルムの大口から膨大な炎が吐き出される。

　二つの超高温の物体はまたしても空中で激突した。そしてその炎勢が合わさりあったかのように、一

瞬その炎が大爆発したかのように膨れ上がった。その核爆発の噴煙にも似た炎は洞内を瞬く間に蹂躙し、

末端にまで退避していた人間達をも炎に包む。

「ぐわああああああああッ！！！」

　熱波が消えた後、眼を静かに開くと。全身がブスブスと焼け焦げているのが映った。髪もチリチリに

なっている。

　だが幸い一瞬の事だった為に、軽度の火傷ですんだようだ。

「くッ、通路内まで非難するぞ！」

　たまらずギルガがここと研究所を繋いでいる通路内まで退避させる。この激闘を間近で見届けたい気

持ちは皆大きいのだが、激闘の余波で命を失っては意味が無い。

　人間達は慌てて通路内に飛び込んだ。

「その程度の熱量、我には無意味ぞ」

　そして三度ミドガルズオルムの口内に炎が灯る。

「ブリューナク・・・・起動・・・」

　ロンの呟きと共に振り上げた大槍の槍先が割れ、そこから熱光が溢れ出る。

　そして吐き出された炎に、長大な刀身と化したその熱光が叩き付けられた。

　再び熱炎が鬩ぎ合う。　

　ミドガルズオルムの炎を熱光は切裂くが、しかしミドガルズオルムの身体には届かず。喰いあうよう

に二つの熱炎は空に消える。

「無駄だ、ロンギヌスよ・・。その程度では我が炎は貫けぬ」

　そして勝ち誇ったようにミドガルズオルムの嘲笑が辺りに響き渡った。

　ロンの大槍に宿る光は薄れ、今はもう消え去りそうな程に儚く灯っている。

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