生と死を越えるか

死線

「愚かなリロンギヌス」

　ミドガルズオルムが蠢く度に地震えが起こる。洞窟内であるので、まるで世界が震えているような錯

覚を受けてしまう。

「神技相殺・・・ダメージ零・・白兵戦へ移行・・・・」

　ロンは儚く輝く大槍を握り、何度目かの突進を試みる。

「クク、我の力も炎だけでは無いぞ」

　そのロンへ向けてミドガルズオルムの右腕が振り下ろされた。

「ああッ！！」

　レイが叫び声を上げる。蟻と人間程に差がある右手に呆気なく押し潰されてしまう。レイは思わず両

眼を手で覆った。

「いや、まだだ！」

　ギルの声に眼を開けるとそこには・・・・。

「何て奴だ・・・」

　ギルガが感嘆の息を吐く。

　ロンがその体長の数倍はありそうなミドガルズオルムの右手の爪を、それから見ればか細い大槍で受

け止めていたのだ。

「我の一撃を受けるとは・・・・腐ってもロキの最高傑作か・・・」

　振り上げ、再び襲い来る右手と左手をかわし、ロンは更に駆ける。

「小癪な」

　流石にその大きさの為に接近戦では小回りが効かないのか、ロンは竜王の魔手をするすると避ける。

そして打ち下ろされ、まだ地響きに揺れるその右手を蹴り、ひゅうと跳躍した。王の眼前を抜け、遥か

高みからその額に向けて。

「フハハハハハ」

　しかしその大槍の一撃も乾いた音を立てて、ミドガルズオルムの額に弾かれてしまう。

　ミドガルズオルムの嘲笑が木霊する。そしてその笑いと共に振るわれた手で、ロンは蝿でも叩かれる

ように撃ち落されてしまった。

　鈍い衝撃が走り、ロンの体が無惨に転がる。

「ロンッ！！」

「待ちなさい！！」

　思わず飛び出そうとするレイとギルの二人を、肩を掴み取るようにミルドが止めた。

「でもッ！！」

　尚も言おうとするレイをミルドの眼が静かに制す。

「私達が行っても邪魔になるの」

「ですが、このまま見て・・・・・、・・・・ミルドさん？」

　収まらない感情を噴出そうとしたギルは、しかしその言葉を最後まで言う事は出来なかった。睨みつ

けるような鋭いミルドの瞳、そしてその奥にある深い何者も気圧されるような、澄んだ深い感情を見て

しまっては、彼もそれ以上は何も言い出せなかった。疼くように吹き荒れていたモノもすっと消えてい

く。

　レイも同じらしく、代わりに不貞腐れたようにその場に座り込んだ。振動が伝わり、レイの体がゆら

ゆらと揺れている。

「しょうがねえガキ共だ。見ろ、小僧はお前等に心配されるほどヤワじゃねえ」

　ギルガの言う通り、ロンは静かに起き上がっていた。遠目から見ても身体を動かすのには支障が無い

ようだ。しかしあれだけの衝撃を受けて五体満足と言うのも、明らかに人間の肉体を凌駕している。

「貴様の取り得はその頑強さのみか。愚かしい、苦しみが続くのみだ」

　侮蔑を通り越して呆れたような声でミドガルズオルムは呟いた。そしてゆっくりと口を開き、すべて

を終らせる為に劫火を灯し始めた。　

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