夢現は同じなりけり

夢幻と思えたり

　目が覚めると見慣れた自室だった。

　毎晩頭を預ける枕、薄汚れた毛布、そして愛用のナイフ。そして今は側から良い匂いが鼻腔をくすぐ

る。反対側には見慣れた顔もあった。

「レイ・・・・夢・・・・だったのか？？」

　ギルは布団を押しのけ、側にあった御粥に手を伸ばした。気がつくと擦り切れそうなくらいにお腹が

減っている。もう、痛いくらいに。

　考えるのは後にして、ひたすら御粥をかき込んだ。すきっ腹に気持ちよく染みていくのがとても心地

良い。そして何よりも・・・美味い。塩加減も丁度良かった。

「ふう・・・・・美味かった・・・。おい、レイ、レイ」

　隣に寝こけているレイを揺すってみる。

「ん・・・、んー」

　だがまったく起きる気配も無いようだ。

「そう言えば、こいつの寝起きは最悪だった・・・・」

　一度寝ると気が済むまで何があっても起きない男だった。雨にさらされようと、太陽に照り付けられ

ようと、どんな事があっても死の一歩手前くらいまでは絶対に目を覚まさない。レイとは子供の頃から

の付き合いだが、未だにここだけは理解し難い。

「まあ、その内起きるだろ」

　窓の外は真っ暗で、性格には解らないが。あれが夢で無ければ、もう随分寝ていた事になる。

「あッ、ギル。もう起きて平気なの？」

「リア・・・・。ああ、そうか。御粥ご馳走様」

「どう致しまして。もう平気みたいね」

　ドアが開きリアの顔が覗いていた。おそらく、今まで看病してくれていたのだろう。優しさが身に染

みた一時だった。

「長老がそろそろ起きるだろうから、用意しておきなさいって。レイは・・・・まだ当分起きそうに無

いみたいね」

「ああ、こいつは朝までは梃子でも起きないだろう」

「寝起きの悪さはこの集落一だもんね」

　そう言って二人で心から笑った。安心出来、お腹も満たされると気になるのは・・・。

「俺達は何でここで寝てるんだ？」

「ああ、そっか。二人とも意識無かったから・・・・。ロンがね、二人を背負って帰って来たの。キメ

ラに何かされたのかと心配だったけど、幸い二人ともどこも悪く無いみたい。本当に良かった」

　リアは終始にこにことしている。無事を喜び合えると言うのは本当にありがたい事だと、心底から思

った。心から喜んでくれる人が居れば、また頑張ろうと言う気にもなると言うものだ。

「そうか・・・ロンが・・・・」

「ねえ、森で何があったの？」

「ああ・・・・そうだ！！ヘルハウンドとケルベロ・・・いや、ヘルハウンドが居たんだ！」

　慌てて起き上がろうとするギルの額に、リアがそっと手を乗せる。

「？？？」

「大丈夫・・・・、ヘルハウンドはもう去って行ったってロンが言ってた。・・・・そっか、間近でキ

メラなんて見るの初めてだったから。きっと追い払った後で気が抜けちゃったんだね」

「え、ああ・・・そうか・・・。そうだな、そうだった」

「じゃあ、ゆっくり休んで。今日はお疲れ様」

　リアはぺこりと頭を下げると、一度にっこりと微笑んでから静かに部屋を出て行った。

「そうか・・・・そう言う事になっているのか・・・・」

　ギルは森で見た事を黙っている事にした。何であったにせよ、ロンがそう言っているのならそう言う

事だったんだろう。何より、自分でもあれが夢だったのか現実だったのかまるで自信が無かった。

　ケルベロスを一撃で仕留めるなんて、まるで信じられない・・・・。キメラバスターと言われる人で

も一対一ではどれほど戦えると言うのだろう・・・・。

「まあ、今は・・・・・・」

　夢と思っておこう。ギルはそう心に決めたのだった。　

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