厚顔無恥無智

そこに居た者、現れた者

　一夜明けて、ギルガは早速部下の中でも数人の手練を選び、近くにあると言う工場跡へと向かう事に

した。武器工場の類もあったらしく、上手くすれば良い武器か機械でも手に入れられるかも知れない。

電池やバッテリーでもあればしめたものだ。

「ギルガ隊長、人数が少なすぎやしませんか。これだと中々に辛いですぜ」

「いや、遺跡内だと人数が多い方が逆に危ない。それにまだキメラと戦うと決まった訳でも無いしな。

取り合えず斥候と言った感じだ、リック」

「そうでやすか、解りやした・・・と、また一悶着ありそうですぜ・・・・やれやれ」

「ん？」

　リックが溜息を洩らした方を見ると、ガリクがなにやら不満そうな顔でこちらへと早足で来ようとし

ているのが見えた。まあ、いつもこの男は仏頂面で不満そうなのであるが。

「隊長、キメラと戦いに行くんでしょう。だったら何故俺を連れて行ってくれないんですか！」

　もう呆れ果てて相手するにも疲れるのだが、それでもきっぱり言ってやる事にした。勿論、軽く凄み

をきかせて。

「お前だと足手まといだからだよ！」

「なッ！？」

　ガリクは一瞬口篭もったものの、聴こえなかったかのようにまた尚更不満そうな顔で。

「俺だってちゃんと戦えるんだ！隊長が何て言っても、俺はついて行きますよ！」

「何だと、わしに従えないと言うのか！この若造が調子に乗りおって！」

　思わず振り上げたギルガの拳を慌てて押えるリック。

「まあまあ、隊長。ここで手を上げたら大人げ無いですぜ。ここは一つ連れて行ってみてはどうですか

ね。どうせついて来ると言うなら、ちゃんと隊列組んで来さした方が何かと都合も良いですぜ」

「むう・・・、だからお前は甘すぎると言うんだ！・・・・まあいい、その代わり死んでも放って置く

からな。ではさっさと行くぞ！」

「オーーーーーー！！！」

　こうして最後尾にガリクを連れ、ギルガ小隊は一路遺跡へと向かった。

　一番新しい周辺図と遺跡の地図をエンリ長老から渡されたので迷う事は無かった。キメラのおかげで

良く地形が変わるので、地図を作成するのも大変なのだ。だが、地図が無ければキャラバンの、延いて

は集落の死活問題になってしまう。だからどこの集落も定期的に周辺図を書いているのだった。

「しかし、この辺はやはり瓦礫がごろごろして歩き難いですぜ」

「ああ、それは仕方が無いだろう。悪路では二足歩行の人間の方が早いし、馬に乗ってたらかえって足

手まといになるからな。まあ、あの辺で休憩とするか」

「その方がありがたいですぜ」

　平らな場所を見付け、近くに転がっている瓦礫に腰を下ろす。各々汗を拭ったり、水を飲んだりして

身体を休めている。ガリクも何とか不平も洩らさずについて来れているようだ。まあ、疲れて喋る余力

も無いのだろうが。

「まったく、面倒くせえ奴だ。よし、皆、そろそろ行くぞ」

「オウッ！！」

　ガリク以外は威勢良く立ち上がり、またしっかりと歩き出す。この地図から読み取るに、おそらく後

２，３０分もすれば目指す一番大きな工場跡へと到着出来るだろう。

「ガリクはやっぱり使い物にならないようだな。後はお前が面倒見ろよ、リック」

「えッ、そりゃ無いですぜ、隊長」

「元はと言えばお前が連れて行こうと言い出したんだ、その責任は取ってもらう。嫌なら見捨てて行け、

誰も面倒見ずにあいつはのたれ死ぬだろう」

「へいへい、解りやしたよ。しかし、あそこまで口ほどにも無いとは思いやせんでしたぜ・・・」

　もう見失わないのがやっと言った感じのガリクを見ながら、とうとう擁護派のリックまでぼやき始め

てしまった。

「まあ、こうして体験させた方が早かったがな」

「・・・そうでやすね。おっと、見えて来ましたぜ・・・」

　目の前には辛うじて原型をとどめていると言った感じの、とうに朽ち果てた建物の残骸がひっそりと

日に照らされていた。元は３階建てくらいはあっただろう、奥行きもありそれなりに大きな建物だった

事が解る。

「やっぱりキメラも居るようですぜ。あれは・・・・珍しい餓鬼とか言う奴ではないですかい？」

「ん、どれどれ」

　リックから双眼鏡を受け取り、覗き見る。

　小さなお腹の出っ張った感じで髪も薄い、そして瓦礫等目に付くものを手当たり次第に口に入れてい

た。子鬼タイプのキメラでも繁殖能力が無い珍しいキメラで、その分お目にかかる事も少ない。

「まったく食い意地の張った奴だ。グルメで無いのが救いかな」

「いや、雑食の分始末に悪いですぜ」

「なるほど、そうかもな」

　双眼鏡をリックに返し、隊員達にしばらく身を潜めてながら隙を窺うよう命令を出した。餓鬼に見付

かるとろくな事にならない。

「問題は率いているのがどんな奴かって事だな・・・・」

　キメラは大抵リーダーとも言える上位種とその兵隊になる下位種が一緒に行動している。ミノタウロ

スのような例外もあるのだが。

　そして基本的にその関係は決まっていて、どちらかが解れば両方の種が判明する。しかし餓鬼自体が

珍しいので、更に希少なその上位種を見た者は今までに人間にはいなかった。どうやら、あまり自らが

表に出るタイプでは無いらしい。

「まあ、ともかくしばらく観察させてもらおうか」

「そうでやすね」

　ギルガ隊は静かに潜伏出来たかに見えた。そう、ただ一人を残して・・・・・。

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