脇役は退場・・・か？

そして災厄を呼ぶ者もいる

　目の前がぼんやりする。頭に熱が回って、蒸れて倒れそうだ。辛い・・・・きつい・・・。

「くっそお・・・、俺がこんな簡単にへたばる訳が無いんだ！さては隊長が無理に強行軍にしてるんだ

な。くそう・・・本当なら俺がこんなに疲れる訳が無いんだ・・」

　ふらふらと揺らめきそうになる足を無理矢理働かせて、必死に歩き続ける。

「ふん、ほら見えて来た。俺を置いて行けるはずなんて無いんだ。この一人前の俺を・・・」

　もう何を言っているのかも自分で解っていないに違い無い。ガリクはとにかく、目の前にある隊長の

背中に向かって歩き続けた。他の隊員達が瓦礫の陰に伏せているのにも、勿論気付けるはずも無く。見

付けて下さいとばかりに堂々と。

「ん？？」

　後ろから聴こえた物音に訝しんだ隊員の一人がそちらに目線だけを向ける。

「ガリクッ？馬鹿かお前は。さっさと伏せるんだ」

　出来る限りの声量でガリクに必至に命じるが、まるで聴こえている様子が無い。目が一点を見詰めて

動かず、瞬きすらほとんどしていなかった。

「副長、副長」

　たまらずその隊員は副長リックへと助け舟を求める。

「何だ、今が一番大事な・・・・って、あの阿呆・・・・」

　リックは小石をガリクの靴に投げてから、小さいが鋭い声をぶつけた。

「ガリク、伏せろッ」

　しかしそれにすら、まったく反応する様子も無く。ゆらりゆらりとただ前へと足を出す。その度にガ

ラガラと瓦礫の崩れる音が辺りに響いている。

　前を見ると、餓鬼共が少し騒ぎ始めていた。このままでは見付かるのも時間の問題だろう。

「くそッ、あっしが甘かった」

　そう言って、リックがガリクを瓦礫の陰に伏せさせようと移動し始めた瞬間。

「居たぞ・・・キメラめ・・・俺が殺ってやる、殺ってやるぜ・・・」

　ガリクがいきなり手にした散弾銃を餓鬼へと撃ち始めたのだ。

「この大馬鹿野郎がッ！！」

　瞬時に反応したギルガがガリクの頬を思いっきり殴り飛ばす。

「げふッぁ！？」

「くそう、こうなったら仕方が無い。全隊、前方の餓鬼へ一斉射撃！！」

「了解！！」

　他の隊員達もすぐに立ち上がり、餓鬼へ向けて銃弾を浴びせて行く。

　弾が餓鬼の頭に衝突し、ザクロのように弾け飛んでいく。餓鬼は戦闘能力自体は低い。近寄らせる事

さえ気をつけていれば、そう怖い相手でも無い。

「流石は火の集落特製の武器ですぜ。狙いも正確で威力もばっちり」

「無駄口たたいて無いで、撃ち続けろ！逃すと面倒だぞ！」

「へい、解ってやすよ」

　それから数分の間、途切れなくギルガ達は撃ち続けた。硝煙の匂いと砂煙が充満している。

「よーし、撃ち方止めい！！」

　砂霧が少しずつ晴れていく。

　完全に晴れると、そこにはもう生きている者等見当たらなかった。緑や青色の液体と、小汚い餓鬼の

亡骸、そして更に崩れた瓦礫のなれの果て、そう言ったものだけが周囲に散ばっている。

「どうやら、全滅する事が出来たようですぜ、隊長」

「いや、まだ油断するな・・。それにまだ上位種が居る筈だ・・・・」

　暫くそのまま眺めていたが、何も起こる様子は無かった。

「寝てやがるのか。仕方無い、明るい内に中を調べるぞ。全隊前進！」

「オーー！！」

　残骸達を眺めていてもしょうが無いので、工場跡内に進入する事にした。上位種が今は不在と言う事

も充分に考えられる。

「ガリクはどうしやす？」　　

「放っておけ、伸びてるだけだ。持って入っても邪魔になる」

「了解しやした」

「しかし、弾を使いすぎたかも知れんな。今の内に残弾チェックしておけよ」

　ギルガ達はゆっくりと倒壊した壁の隙間から足を踏み入れて行く。

　中は薄暗く、先程の砂煙の名残も入り込んでいた。

　ギルガは明かりを点けさせ、自分とリック率いる二部隊に分ける事にした。

「一時間後にここで落ち合う事、何かあれば発砲するなりして知らせろ」

「解りやしたぜ、隊長」

　そしてリック隊は左へ、ギルガ隊は右へと進路を向けた。

　太陽はすでに大きく傾いている。

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