畏怖せざる者

隠-ONI-

　外で汗をかいた為か、少し肌寒い感じもする。天井や壁に大穴が開いて、風通しが良くなっている所

為もあるかも知れない。

　散ばるどの瓦礫にも歯型らしきものが見受けられた。おそらく餓鬼が食べたのだろう。と言う事はこ

の工場にあるものは粗方食べ尽くしているのかも知れない。

「ちっ、餓鬼の後には草一本残らないとは良く言ったものだ」

　餓鬼には好き嫌いは無い、鉱物だろうと生物だろうと、それが例え仲間の死骸であっても躊躇無く食

す。自分達以外のものは全て食料に見えるらしい。この辺、蟻と似ているのかも知れない。

「ま、生存競争には有利だろうが」

　いつも茶々を入れるリックが今は居ないので、ギルガは何だか物足りなく感じた。だが、そんな事を

言っても仕方が無い。ギルガのキャラバンには元来口の達者な隊員は少ないのだ。

「隊長、こちら側は行き止まりのようです」

「みたいだな。しょうが無い、戻ってさっきの通路を曲がるぞ」

「了解！」

　一度二股の通路まで戻り、先程とは違う方向へ折れる。何しろ大きさで言えばかなりのものなので、

探索には少し時間がかかりそうだ。

　どれくらいそんな行為を繰り返しただろうか。

「隊長、何だかそれっぽい大仰な扉があります」

「ああ、こりゃあ如何にもな扉だな」

　その扉は他の扉よりも厚く重量感があった。押し開けるのにも苦労しそうだ。カードロックが機能し

ていないから入れる訳だが、その分全て手動でこなさなくてはならない。

「皆手伝え」

　全員がかりで思い扉を押し開く。

「折角、汗も引いたのによ」

　愚痴る隊員もいるが、仕方が無い。見返りが欲しければ、諦めずに頑張る事だ。

「と言う訳で頑張れ、お前ら！」

「オーー！」

　重苦しい頑丈な扉だったが、それでもしばらく全員で力を込めていると、少しずつ動き始めた。

「ガス欠で車押してた時を思い出すな・・・・」

　一度動けば後は容易い。苦心はしたものの、見る間に隙間が広がって行く。人一人通り抜けられそう

な程開いた後、ギルガは隊員を左右に布陣させ、自らは手に持つ銃身からゆっくりと覗き見た。

「・・・・・・・・・・・・・・」

　薄明かりの中、瓦礫と機械の残骸が散ばっている。酷く散文的な光景で何の感慨も沸かなかったが、

その中で一つだけ目を引くものがあった。

　瓦礫にもたれる赤い瞳。電光のようにやたらと光が目に映る。暗がりに慣れてくると、その下にミノ

タウロス程では無いが、大柄で頑強な筋肉の塊が見えた。上の方には薄く差す陽光を跳ね返す鋭い三本

の角。

　そして怠惰そうにそれがむくりと起き上がった。

「餓鬼共か・・・・・ここには来るなと言っただろう！」

　一声毎に震えた扉や瓦礫が耳障りの悪い音を立てる。叫んでいるようにも思えたが、おそらくそれが

地声なのだろう。

「ん・・・・この臭いは・・・違うな・・・。臭え臭え、薄汚れた泥臭え臭いがする！人間共が己が分

を知らずにこんなとこまでやってきおったか！」

　そしてゆっくりと立ち上がる。２ｍ強くらいの身長だが、小山が出来たかと思う程の威圧感を感じる。

全身から闘気でも噴出しているかのような姿、地底から響き上がるかのような声、その全てに恐怖感を

煽られる。

　キメラを良く知り、良く見るギルガですらガチガチと歯が音を立てるのを止められなかった。

「これが・・・鬼って奴か・・・・」

　姿を見た者は数える程もいないが、その名前だけは広く知れ渡っている。その能力はズバリ恐怖、単

純だが人間相手では最も効果のある能力だ。そして前線指揮官を想定して開発されていた為に、その膂

力も速度も桁外れだと言う。勿論知能も高い。

「クハハハハハハ、小賢しい！そのようなちゃちな鉄筒で我を滅しようとは笑止千番！」

「天井が開いてる、信号弾を撃て！」

「はいッ！」

　隊員の一人が携帯していた信号弾を空へ撃ち上げた。しかしリック達がここへ来るまでに、果たして

どれほどの時間がかかるか・・・・。

「一斉射撃！！」

「了解！！」

　不安を打ち消すように、ただ銃の引き金を引き続けた。

　もう、夕暮れも近い。

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