鬼の首、討ち取ったり

朗々たる導き

　鬼が迫る。

　しかし、それは人間を小馬鹿にしたようにやけに余裕染みていて、ゆっくり踏み締めるように歩いて

いる。人の手に持つ銃器も一向に意に返した様子も無く。

「大物の貫禄でやすか。まあ、おかげでやりやすいですがね」

　リックは先程見つけた特殊銃を一つ手に取った。砲身が長く、２ｍ程もありそうだ。その分速度と貫

通力があるだろう。何発弾が込めてあるか解らないが、装弾数が多い事を祈ろう。

「お前らは火の集落製の銃を使いなせえ。あっしらは隊長の援護だけすれば良い」

　その言葉に一人の隊員が不思議そうに反応する。

「では何で副長はその銃を？」

「試し撃ちでやすよ。試し撃ち」

　副長リックは悪戯っ子のように無邪気に微笑んだ。

「さあ、チャンスは一度ですぜ！」

　そして覇気を込めた言葉を吐き出し、皆に緊張感を取り戻す。

「砲撃開始！」

　リックの声に応じて隊員達が一斉に引き金を引く、鬼の上体を狙い視界を悪くしないように気を使い

ながら。

「フン、そんな貧弱な銃で我を止められると思うてか！」

　だが、雨のように降り注ぐその銃弾も、鬼の鋼のような筋肉の前では、やはりまったく役に立たない

ようだ。衝撃を吸収された弾丸が鬼の周りにバラバラと散り落ちる。

「副長、やはりこの銃では威力が足りません。副長は撃たないので？」

　見ればリックは号令をかけた後も、銃身で狙いを付けているだけで、まだ一発も撃っていない。

「まさか、弾が装填されてなかったので？」

「いや、物には使い時ってのがあるでやす。おめえらは気にせずに撃ち続けていれば良いですぜ」

　それきり隊員達も黙った。と言うよりは鬼の殺傷圏内に入りそうだったので、無駄口を叩いている余

裕が無くなったと言った方が良いかも知れない。

「フハハ、脆弱な人間の造った物はやはり脆弱か！誉められる物は我らキメラのみだな！」

「けッ、自画自賛するようじゃあ、もうキメラも終わりですぜ！」

「手にする銃を撃てもしない腰抜けに言われる筋合いは無いわ！」

　リックは依然静かに長銃を構えている。

「ふん、観念してさっさと滅せ、人間が！」

　鬼が腕を振り上げ突進しようとした瞬間、ギルガが動いた。

　それを把握出来たのは、当のギルガと冷静に見ていたリックだけだったろう。振り上げられた腕が根

元から見事なまでに切り捨てられ、そのまま弧を描いて飛んで行く。

　次に理解したのは鬼に走る鋭い痛み。

「グオオオオオオオオオオオッ！！」

　苦痛に歪んで尚、鬼の顔には恐怖を覚える。そして隊員達が次に見えたのは、鬼の憎悪。膨れ上がる

闘気と降り注ぐ青緑の液体。

「貴様、まだ動けたのか！しぶとい奴めが！」

　しかし見る見る鬼の傷口は塞がる。腕はまだ生えないものの、最早痛みも感じていないようだった。

　だが、勿論怒りは消えない。消える所かますます膨れ上がっている。

「我の腕を落とすとは、この痴れ者が！」

　ギラギラと燃える目を滾らせながら、残った左腕をギルガへ向けて振り下ろす。

「鬼さん、それは甘いと言うものですぜ」

　見計らったかのように、リックが長銃の引き金を引く。くぐもった音と共に弾丸は銃身を疾走り、勢

い良くその左腕を弾き飛ばし。腕を貫通した弾丸はそのまま鬼の角を二本へし折り、三本目に喰らい付

いて止まった。

「グウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！！？？？」

　さしもの鬼もこれには耐え切れず、今度は発狂したような叫び声を上げた。その声が耳で木霊する度

に、隊員達の胸に底知れぬ恐怖が満ち暴れる。

「最後まで怖えキメラだな！面倒くせえ奴めッ！！」

　気合一閃、ギルガの振るった刃は見事に鬼の首をすっぱりと刎ねた。

　その勢いで飛び上がった首が数ｍ飛ばされて瓦礫に落ちる。

　そしてそのまま目の光が消えて行った。

　いつの間にかすっかり暗闇が場を覆っている。

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