憩いの一時？

一つの終結、一つの疑問

　ギルガ小隊は工場跡の探索を終え、途中ずっと伸びていたガリクを拾い火の集落へと戻って来た。

　手には証拠の鬼の首を持って。少しグロテスクではあるが、列記とした品を眼前に突きつけるくらい

でなければ、不安は完全には晴れまい。そう考えての事だった。

　幸い、キメラは生命が途絶えると生物の方の属性が薄れ、まるで彫刻のような印象に変化する。鬼の

首、と言うよりは首を象った物と言った感じだ。これなら、嫌悪感もあまり無く見れるし、だからこそ

平気でぶら下げて歩く事が出来た。

　首はすっかり大人しくなったガリクに持たされた。せめてもの手柄をと言うリックの配慮である。と

ことん、甘い奴だ、とはギルガの弁。とは言いつつ、彼もこれからのガリクの成長に期待はしている。

　今回の探索の成果は一振りの長刀に、４丁の特殊銃。どれもまだ使用出来る事は鬼との闘いで実証済

みであり、心強くもあった。これだけの成果が上がれば、激戦を差し引いても上々と言った所だろう。

　そして、再び大いに彼らは歓待され、ギルガとリックは酒を酌み交わしつつ今日あった事を話合って

いた。場所は少しにぎやいだ場所から離れた所である。

「やはりこれはキメラ鋼だろうな・・・。わしも初めて見るが」

　ギルガは左手に持つ例の長刀をすらりと抜き放ち、改めて刃をじっくりと眺める。錆付く所かますま

す輝いているように見える。キメラを切って尚、刃毀れ一つ無い。火明かりをゆらゆらと浴びて、ぎら

ぎらと淡いが鋭い光を帯びていた。

「やはりそうでやすか・・・。あっしも見付けた時は驚きやした。何しろ、キメラ鋼なんて眉唾だとば

かり思ってやしたから。しかし、現存したとあればこれほど心強い武器も無いですぜ」

「うむ、キメラ共に使われなくて良かった」

「キメラ共は人間の造った武器なんて使いやせんぜ」

「まあ、そうだがな」

　キメラ鋼、キメラと同じくアポクリスプが生み出した恐るべき兵器。キメラの持つ二属性の内、鉱物

の属性を高める事で出来たと言う、言わば意志の無いキメラである。その硬度はキメラ鋼の特性上キメ

ラを上回り、勿論キメラ同様自己修復能力も備えている。武器の素材としては最も優れているだろう。

　生体キメラが動を司るなら、キメラ鋼は静と言った所か。ただ、その存在は今まで噂だけであり、現

存するキメラ鋼を見た者はいなかった。

　それが今、目の前にある。

「しかし、本当にキメラを大根でも切るみてえにあっさり切れやがった。鋼でも、よほど上手く鍛えな

けりゃキメラの皮膚すら傷つけられないのによ」

「ええ、正に無類の剣客って感じでしたぜ、隊長」

「よせやい」

　しかし言われてギルガも悪い気はしない。子供の頃は、まだぎりぎりまともに暮らせていた頃は、本

やアニメに出てくる剣一本で悪を切り倒す英雄に憧れたものだ。今ではそんなものに憧れている余裕は

無くなってしまったが。

　確かに人は強く逞しくなったように思う、だが昔のように遊びの余裕を忘れてしまったようにも同時

に思う。それは悪く無いが、確かに哀しい事であると、彼は考えている。

「ここは一つ、キメラバスター以上の英雄を目指してみますかい」

「ふん、分不相応な事を考え出すと人は不幸になるんだ」

「そうでやすか」

　囲っている焚き火がゆらゆらと光を放っている。闇は怖い夜は怖い、だがひどく落ち着くのも事実だ。

矛盾しているが、人間はそんなものなのだろう。言わば矛盾の調和、と言った所だろうか。おかしな例

えであるが。

「しかしそれよりも、わしはあの鬼の一言が気になるな」

「なんでやすか？」

　長刀を鞘に収め、手持ち無沙汰な両腕を組んだ隊長にリックが問うた。

「いや、あいつはな。まずは貴様ら人間共からやってやる、とこう言った。という事は、奴らが探して

いる何かと言うのは一体何だろうと思ってな。まずは、と言う事は少なくともそいつは生きているって

事だしな。何者をキメラ共は躍起になって探しているのだろうか？」

「ああ、確かにそうでやすね・・・。言われてみれば不思議この上無いですぜ」

「うーむ」

　腕組みしたまま悩むギルガの低く唸る声は、その夜集落中で絶える事の無い歓声と共に、いつまでも

続いていたと言う。その悩みに付き合ったリックも、安眠とは程遠い一夜を過ごした。

　ゆっくりと夜は深けていく。

BACK・ EXIT・ NEXT