法則より外れし者？

御魂

　安らかに生み出、穏やかに受け継がれるそれは、生物の生物たる所以らしい。

　ただの肉片である肉体に命を吹き込むものはそこに確かに存在する。

　だが、それが見えない者が居た時、その者はそれでも生きているのだろうか。同じように動き回り、

言語を解するにしても、それは生きているのだろうか。未だ解らず、解るべくも無い。

「まったく不思議な若者だわい・・・・」

　森の集落の長老ラフィアスは一人静かに呟いた。

　ロン、ギル、レイの三人が戻って以来ケルベロスの姿は一度も見られていない。確かに追い払われた

のだろう。しかし、ヘルハウンド達下位種ならともかく、上位種たるケルベロスを若者三人が退けられ

るとは、彼にはどうしても思えない。

　しかも、この集落の武器はとても弱いものだ。キメラの外皮にはとてもではないが通用しないだろう。

若者達に持たせた武器は、正確には武器では無い。獣を狩る為のただの道具。

「しかし、実際にケルベロスは消えた・・・・。それなら、それでいいのだが・・・」

　ともかく

「あの若者は良くも悪くも異質である・・・か」

　どちらにしても、森の集落は助かった。それは喜ぶべき事であろう。

　そして、ラフィアスは一つの決断を下す事にした。

　外は白々と光が満ち始めている。

　その頃ようやく起きたレイはしっかりと朝食を摂っていた。

　勿論、リアお手製の暖かい料理である。レイも彼女の料理がとても好きだった。

「はぐはぐあぐあぐあぐ」

「そんなに慌てなくても、誰も取らないよ」

　そうリアが思わず苦笑するほどの見事な食べっぷりだったと言う。御粥と野菜炒めが見る間に減って

行く。先程まで気絶して眠っていたとは思えない程の食欲だった。

「よく食べるな、お前は」

　ギルがそう言ったように、実際レイは誰よりも良く食べる。体格的に劣るギルよりも更に食べるのだ

から、ある意味この集落の食料危機と言ってもいいかも知れない。そのくせ、細身なのだから始末に悪

い。もとい、女性達から羨ましがられている。

　この青年は頭が良いからそっちに全てエネルギーが行っているのだろう、とはギルの見解。

「それにしても、あの森で何があったっけ？」

　そしてレイはあの森の事はまったく覚えて無い様子だった。

　誰に聞かれても、何も言わなかったのである。

「説明は難しいが、ともかく何とか生き残ったんだ」

「ふうん、なら良いか。リア、おかわり」

　こんな感じで、気にもしていないように見える。

「もう、食べ過ぎだよ、レイ」

　リアは難しい顔で空になった鍋を見せた。レイの顔が大きく曇る。

「えー、もう無いの？まあ、しょうがないか・・・・・。あ、そう言えばロンは？」

「ロンは・・・・まだ寝ているの・・・」

　今度はリアの顔が曇っていく。

「そっか、でもロンなら大丈夫さ」

「そうだよね」

「ああ、ロンなら大丈夫だ」

　レイはにっこりと笑っていた。そして野菜炒めをおかわりするのであった。

　

　眠るといつも何かを見てしまう。

　忘れているものなのか、それともただの夢なのか。

　解らない漠然とした何か。そして目覚めと共に静かに引いて消える。

　だから、起きた時はいつも何か得体の知れない感情に取り付かれる。

　朝日を見てそれが消えるまでは。

「ん、うーん」

　ロンは静かにかけられた毛布をはぐると、いつも手にしている棒を支えにしてゆっくりと起き上がっ

た。今日は何故か充実感を感じている。役目を果たした、目標に届いた、そんな安らいだ充実感を。

　そして窓を覗くと、やけに明るい光が目に突き刺さって来た。

　思わず瞼を瞬かせる。

　幸か不幸か、今日もこの世界は光に包まれている。

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