浮かぶ揺らぎ

翔ける雲のように

「果たして人一人の手でケルベロスを退けられるものなのか・・・」

　レジトは悩んでいた。それは奇しくか必然か長老ラフィアスと同じ悩みであったが、勿論そんな事は

彼には解らない。

　ただ漠然とした不安、いや不信感が湧き上がりつつあった。

　ロンと言う青年。あの青年は一体何者なのか・・・・。

　来る者拒まずのこの世の中ではあるが、それでも疑問もあればそれについて悩む時もある。レジトは

青年団のまとめ役、リーダーであり、ただキメラ撃退に浮かれている訳にはいかない。少なくとも彼は

そう考えている。

「まあ、騒ぐのも活気があって良いとは思うが・・・・」

　今日は朝から集落全体が活気付き、俄かお祭り騒ぎとなっていた。勿論、キメラが去った喜びからで

あり、調査に出た青年達の無事を祝うものでもあった。

　それだけ、キメラは人間にとって脅威以外の何者でも無いのだ。

「しかし、一体森で何があったのだろうか」

　だが、それに反するようにレジトは昨夜からずっと悩んでいる。素直に喜べない。彼は子供の頃から

全て納得いく説明が出来なければ我慢がならない性格だった。曖昧さ、不完全、不明瞭、そういったも

のがとにかく嫌いだったのである。それは大人になって少しなりを潜めたが、かと言って完全に消える

ものでも無い。三つ子の魂百までもと言う諺もある。

　それは責任感が強い裏返しかも知れなかったし、好奇心が旺盛なのかも知れなかった。

　だから彼は疑問を感じている。それともう一つ、この集落の更なる武装化を望んでいた。

　この集落にある装備だけではとてもではないが、防衛すら出来ない。それが彼の漠然とした感情を更

に煽っていた。レジトは確かに何かに追われている。

「私が何とかしなければならない。まずは武器、それには・・・・武器が買える資源を・・・・」

　そしてレジトは長老宅へと急いだ。

　人々の心に微かな波紋が生じ始めている。

　ギル、レイ、リアはロンと共に広場に出て、この明るい雰囲気を謳歌していた。

「ロン、もう身体は大丈夫？」

「・・・・ええ、問題無いです」

「問題無いって、変な言い方」

「そうですか？」

　小首を傾げるロンを見て、リアは思わず笑いを押えられなくなった。その顔がとても生真面目だった

からだ。ロンはいつも一生懸命に考えている。あいさつ一つにしてもよく考えてからしているように見

えた。

　それを見る度、リアはもう少し気楽にやれば良いのに、と思う。だが、それも記憶が無い故の不安か

らくるのかと思うと、胸が締め付けられるような哀しさを感じる。ここ以外に行き場も無いから、無理

に気を使っているのではないかと。

「そんなに気にしないでいいよ。別にふか～い意味があって言った事でも無いんだからね」

「・・・・そう、なのですか？」

　しかし、やっぱり可笑しい。おそらくこの青年は天然なのだろう。その無邪気さと素直さが、悪いと

は思いつつもどうにもツボにはまってしまう。

「また、漫才やってるよあの二人」

「レイ、お前変な言葉知ってるな」

　それを見ながら、レイとギルも思わず相好を崩してしまう。

　だが、このコンビも周りから自分達が同じように思われている事に気付いていない。

「でも、皆無事で良かったよね」

「ああ、だがキメラに出会ったのが俺達だけと言うのは、あまり歓迎したくないがな」

　不幸な事にキメラと鉢合わせしたのは、ギル達のチームだけだったらしい。

「良いじゃない。皆助かったんだから、ね？レイもギルも大きな怪我無かったんだから」

「まあ、そうだな」

　リアが難しい顔をするギルを強引に納得させた。リアには昔からこういう時の押しの強さがあり、そ

れだけには長老ラフィアスすら敵わない。だからギルやレイでは遠く及ばない。

「まあ、昨日の事より明日の事だな」

　そして皆、そう言うリアも嫌いでは無かった。

「そして明日の為に今頑張らねばならない事もある！」

　ギルは酒を手にしているレイに向かって走り出した。

　レイはおそるべき酒乱でもあったからである。

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