開く扉

始まりは日の出と共に

　エネルギー資源が特に貴重になった今世、消費量を極力押える為に日の出と共に目覚め、日の入りと

共に眠りにつくのが一般となった。薪もそう毎日深夜まで灯しておく程の量を得るには、毎日のほとん

どを薪拾いに費やさなければならないし、集落の外に出れば出るだけ危険も増える。

　ただ、一見不便にも思えるこの生活になって人々が改めて気付いた事がある。つまり、早朝は清々し

い。

「やっぱり、朝の空気は美味いねえ」

「俺には同じにしか思えないが」

「ギルは好き嫌いが無く、食欲旺盛だからね」

「何の事だ、レイ？？」

　集落の青年達は、起きて早々レジトに呼び集められた。そして広場に早めに集まった青年達は、思い

思いに欠伸したり集められた訳を推測したりしている。勿論、何時如何なる時も例外は存在するもので。

　がやがやと騒やいでいる中、少し高くなった所へレジトが静かに上がる。そして、それに合わせるが

如く、ざわめきも潮のようにすうっと引いていった。

　そしてゆっくりと口を開く。

「皆に今日集まってもらったのは、至急決めたい事があるからだ」

　レジトの声は低いながらも良く通る。

「皆も最近のキメラの動向には不安になっていると思う。近く集落を移動する事が決定したが、それと

同時に軍備を増強する事も決まった。それは皆も知っている事と思う。そして、これからが大事な話な

のだが、武器を得る為に火と鉄の集落まで行ってもらいたいのだ」

　再び青年達が騒ぎ始めた。無理も無い、彼等に死んで来いと言っているようなものなのだから。

　レジトは暫く間を置いてから、再び口を開いた。

「何も我々だけで行くとは言ってはいない。キャラバン隊とミルド隊長が力を貸してくれる」

　それを聞いた途端、先程とは別の意味で青年達が騒ぎ始めた。若い男なら、ミルドを見て熱狂しない

者はいないだろう。そのミルドと一緒に旅が出来ると言うのだ、しかもキャラバンが一緒ならば安全度

もぐっと高まる。

「そこで鉄の集落に行く班と火の集落へ行く班、そしてここに残る班の三班に分けようと思う。それを

これから決めて欲しいのだ」

　すると一人の青年が手を上げた。

「レジトさん、ミルド隊長はどの班に付いていただけるのですか？」

　レジトはそう聞かれる事を予想して、実はある程度の配置はもう決めてあった。ただ、無理矢理押し

付ければ不満が出る事は解りきった事だったから。取り合えず話し合いと言う形をとって、何気なくそ

の配置に誘導して行く事にしたのだ。

　その為、多少予定とは違った振り分けになる可能性もあるが、それくらいは大目に見る事にしている。

「ミルド隊長は一番道のりが遠い鉄の集落へと行っていただく事にした。それと一つ、今回はキャラバ

ンも二つに分かれる訳だから、戦力も半分になる。いくらミルド隊長と一緒だと言っても、最悪の事態

は覚悟してもらわなければならない」

　この声で熱狂も少し収まったように見えた。代わりにこの間見た、ケルベロスの姿が浮かんだのだ。

どの人間も根本にはキメラへの抗い難い恐怖心がある。ただ、我慢強いと言うか、素直で無い者も、こ

れまた何処にでも居るものだ。

「じゃあ、僕等は鉄の集落行き決定！」

　突然大声を出したのはレイ。ギルがそれに驚き。

「おい、僕等ってどういう意味だ！？」

「そう言う意味だよ。ね、ロンもそれでいいでしょ？」

「・・・・ええ、良いですよ」

「ロン、お前まで・・・」

　ギルはあっさり了承するロンに呆れたが、彼もどうせなら鉄の集落へ行きたいと言う思いは確かに有

る。

「よし、ではお前達は鉄の集落班にする。さあ、他の者も挙手するなりしてくれ」

　そして堰を切ったように、青年達は意見を言い始める。

　ロン達については誰も異論は出なかった。キメラと会って生還した彼等が一番危険なとこへ行く事に

異論が出るわけも無い。

　それから小一時間程でメンバーは決定したのだった。最後にレジトが副隊長と共に火の集落へ行く事

を宣言して、その場はお開きとなった。後は皆夜更けまで準備に追われるのだろう。

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