困難とおかしみ

件の地へと

　鉄の集落、火の集落と二分する武具生産集落である。火の集落が銃器や刀剣、つまりは鍛冶細工を得

意とするならば。鉄の集落は電脳機器、科学技術的なものを得意としている。元々数少ない生きている

工場、研究所に人々が住み着いたのが始まりであり、科学的遺産もかなりの数があった。

　そしてキメラの大攻勢以来、砦のように使われている。防衛設備も少ないが生きている為に、キメラ

達も中々発見する事が出来ず、また攻め難いだろう。今では世界有数の大集落になっている。

　ここではキメラの解析が多数の科学知識を受け継ぐ者達によって、昼夜行われている。現在人間が知

るキメラの情報は、ほぼ全てがここから齎されたと言っていい。人間の生命線とも言える集落でもある。

　ただ、ここへの道のりは困難を極める。付近は終始、この集落の位置を特定しようとするキメラ達が

徘徊しており、見付かれば命は無い。

　そして何より、ロン達が出発した森の集落からはほぼ対極に位置している。人間の集落はそう遠く無

い場に点在しているとは言え、下手をすれば往復で一月、二月かかってしまうかも知れない。

　そんな場所へ彼らは向かっている。

「いい、隊列だけは崩さない事。前にちゃんと付いてさえいれば、迷ったりしないから」

　先頭は勿論ミルド隊長、次にキャラバン隊員、そして青年達、最後にもう半数のキャラバン隊員が後

ろを固める。青年達も毎日の暮らしで鍛えられているとは言え、キャラバンにはやはり及ばない。その

為、全体的に進みが遅くなっているがそれは初めから解っていた事だ。

「かなりの強行軍になってしまうけど、しっかり付いて来て」

　今回はそう言った事情もあり、なるべく他の集落へ寄らずに一気に鉄の集落まで向かう事に決めてい

た。勿論、口で言う程簡単な事では無い。しかしそう悠長にしてもいられないのだ。何ヶ月も集落を離

れる訳にもいかないし、何よりキャラバン隊がそこまで滞っていたら、食料の得る手段が乏しい集落等

はすぐに壊滅してしまう。

　どこの集落も備蓄はしているとはいえ、もって二ヶ月。いや、一月半が良い所かも知れない。

　だから、辛くても苦しくても誰も泣き言一つ洩らさない。洩らす事は許されない。

「大丈夫かしら？」

　キャラバン隊達は皆、それが心配だった。運搬に人手は必要だが、それ以前に足手まといになるよう

であれば話にもならない。　

　しかしミルドが思っていたよりも、青年達はタフらしく。誰も脱落者は居なかった。と言うよりも、

脱落すれば命が無いと解っているからかも知れない。

　ともかく、森の集落を発って一週間。キメラを危なげ無くやり過ごし、切り抜け。特に何事も無く予

定通りに行程は進んでいる。天候も気候も幸いにそう悪化する事無く、むしろ順調過ぎると言っても良

いかも知れない。

「しかし、皆良くやるよね。ギルもそう思わない？」

「レイ、喋ると余計な体力使うぞ」

「だって、一週間も黙りこくってると僕何かは辛くってさ。ロンもそう思わない？」

「んー、そうですね。楽しい方が気分も楽になりますし」

　ロンは少しずつ口数が増えていっている。レイ達が出会った当初は機械のように、いいえ、はいを繰

り返すくらいしか言わなかった事から比べると、これはもう格段の進歩である。

「やっぱりそうだろ？ただ歩くだけだと辛いって」

「そのくらいにしとけ、レイ」

「だーいじょうぶだって、ギル」

　と言いながらも、レイは息が荒く言葉も乱れて聞き取り難い。

「休憩までは大人しくしてましょう」

「・・・・・解ったよ、ロン」

　レイは少し頬を膨らませながらも素直に従った。彼がこういう顔をするとまるで少年のままのように

なるので、それを見る度に幼馴染のギル何かは可笑しくって堪らない。

　今は真面目くさった顔で必至に堪えているようだが。

「後、２０分もすれば完全に日が落ちます」

　ロンの予報は不思議とよく当たった。ミルドも同じ判断をしたらしく。

「では、ここで野営にします。準備に取り掛かって下さい」

　程なくそう言う指示が出た。　

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