ツワモ共が夢の跡？

先進の陽炎

　鉄の集落は喧騒に満ちている。予定外のキャラバンが来た為、と言う事も勿論あったが。この集落は

いつもこんな感じらしい。誰も何処も活気で溢れている。

　そして何よりもその懐かしい先進時代の名残のある景観が、見るものに希望とやる気を起こさせる。

　青年達もそれに感化されたのか、キャラバンの手伝いをしたり、武器を操る知識や技術を学ぼうと誰

もが進んで出来る事を探していた。そんな事は関係無く、遊んでいる者も当然いるが。

　そんな中、レイとギルは宿の風呂で疲れを落としてから二人で食事を摂っていた。

「やっぱりロンをほったらかしにしたのは悪かったかなあ・・・」

「ん、でも仕方が無いだろう。何をやっても気付きもしなかったからな。それに子供でも無いのだから

・・・・」

「・・・・そうだね・・・。ん、そうかな？」

「・・・子供かも知れない。やはり、見に戻ってみよう」

「うん、そうしよう」

　ご飯をひたすら掻き込んでから、料金はキャラバンに付けておいた。資金源は全てキャラバンが預か

っている。青年達が個人で持っている金は小遣いみたいなもので、宿代にもならないかも知れない。

　二人は喧騒の中を小走りに駆ける。

「ギル、もし居なかったらどうしよう？」

「そうだな、いなければ少し探してみよう。迷子になってたら事だしな」

「うん、解った」

　人口が著しく減少し、キメラが徘徊している為、夜盗等の類は驚く程あっさりと世の中から消え失せ

た。そんな事をしてる暇があれば、他にやる事は腐る程あったし。それ以前に盗る程の物が何処にも無

かったからだ。つまりは盗人が存在出来る余裕すら、何処にも無かった。

　だから二人が心配しているのは、専ら迷子やら何か面倒を引き起こしてないかと言う実に子供っぽい

事だったのである。

　何しろ、ロンは最低限の常識すらほとんど知らない。

「何だか弟と言うよりは、子供が出来たって感じだね」

　レイが心から可笑しそうに笑う。

「そうだな。危なっかしいからな、ロンは」

　ギルもつられるようにして笑う。

　迷惑はかけてくれるが、どうにも憎めない。それに何とかしてやらねばと、ロンを見ていると思って

しまうので余計に始末が悪い。

「変な奴だよね」

「ああ、変な奴だ」

　宿は集落の入り口からさほど離れていないので、戻るのは楽だった。

「うーーーーーんと」

　見回してみるが、人影らしきものは無い。通行人など居るはずも無く、集落の喧騒と比べると哀しい

くらいに荒涼としていた。目に映るものと言えば、岩肌くらいなものだ。

「いないね、何処行ったんだろう？？」

「取り合えず、行きそうな賑やかな所にでも行ってみよう」

「うん、解った」

　二人は踵を返し、先程と同じように小走りで駆けて行く。

　程なく宿が見え、一応覗いてみたがまばらな人の中にロンの姿は無かった。

　二人は頷き合うと、奥へ奥へと足を踏み入れて行った。

「うーん、やっぱり見付からないね」

「ああ、こう人が多いのも、こういう時は不便だな。木の葉は森に隠せ、とは良く言ったものだ」

「ギル、何それ？」

「古い言い伝えさ」

　そのまま中心部らしき所まで進んだが、ロンのロの字すら見付からなかった。人もいよいよ増え、引

切り無しに現れては消えていく。もう人探しどころか、二人が離れないようにするのが精一杯になって

しまった。

「これは駄目だ。このままでは俺達の方が迷子になる。後はキャラバンの人達に頼もう」

「そうだね、ミイラ取りがミイラに、って事もあるしね」

「何だそれは？」

「古い言い伝えさ」

「レイ、お前もか」

　二人は近くに居たキャラバン隊員に、一人逸れたかも知れないと伝え、自分達は忘れない内に来た道

を引き返した。

　後は思い思いに行動しようと決めている。彼等も他の集落に行ける事なんて普通は無いから、楽しく

てしょうが無いのだ。ギル何かはこの機会に憧れのキャラバンについてもっと知りたいとも思っている。

「じゃあ、後は好きにしよう」

「うん、ギルも迷子にならないでくれよ」

「お前こそ」

　二人は宿前で別れ、それぞれの目指す喧騒の中へと消えて行った。

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