主人公覚醒

解き放たれた・・・私はトキハナタレタ

　おそらくここが破壊された後、この通路は誰も使う者は無かったのだろう。埃っぽい空気が充満して

いて、思いっきり吸い込むと噎せ返りそうだ。

　マスク越しに味わっていてもとても酷い味がする。

「うー、こんなとこに長く居たくない」

　そうは言ってもこの階段を駆け下りる事はしたくない。手にしたランプ以外の証明は付いておらず、

この区画がまったく機能していないのが解る。

「もう何年も前に破壊されたのだものね・・・」

　電力供給すらされて無いのかも知れ無い。発電設備まで調べる余裕は無かったけれど。

「ま、電力は期待して無かったからいいけど」

　この時代、何よりもエネルギー資源となるものに価値がある。固形燃料、電力供給装置、ガス、石油、

そう言ったものが金等の希少鉱物資源よりも遥かに高価で取引される。また、集落の運営においてもそ

う言ったものは必要だ。

「このランプが消えるまでに帰れるといいのだけれど」

　一時間分の電力を充電させてあるのだが、配線がショートする危険性も否定出来ない。技術はほとん

ど失われ、整備も満足に出来ないのだ。替えの部品もそうある訳でも無い。

「ん、何だろう・・・・あの光・・」

　１０分程進んだだろうか、階下から薄っすらとした光が漏れ出している。暗闇で無ければ視認出来な

い程の淡い光であったけれども。

「電気の光だわ・・・。もしかしたらまだ機能が生きてるのかも」

　なるべく急いで階段を下りる。時々バランスを崩しそうになるのを必至に堪えながら行くと、光の前

で階段が終わっていた。そこは少し広めに空間が取られており、階段通路で憂鬱だった気分も少しだけ

ど晴れたような気がする。やはり狭苦しい所は嫌いだ。

　前には一つだけドアがあり、どうやらそのドアの隙間から光が篭れ出ていたようだ。本来は光も漏れ

ない程きっちりと閉まっていたのだろうが、今はそのドアが少し歪んでしまっている。

　横にカードリーダーのようなものが見えたが、構わず隙間から指を入れて力を入れると、すんなりと

ドアは横へ移動した。

「ロックも機能して無いみたいね・・・。それならこの光はなんなのかしら・・・」

　この部屋だけ電力が供給されていると言う事でも無さそうだ。

　いぶかしみながらリアはその光に誘い込まれるようにゆっくりと室内へと踏み入る。

　そう広くない部屋にぽつんと一つ。棺のような冬眠装置のような、そんな淡く発光するカプセルが鎮

座していた。他には何も無い。それに繋がっている太いコードのような線が申し訳程度に見えるだけ。

「何だろう・・・この部屋・・・」

　そのカプセルに近寄ってみると。

「あっ！？」

　その中には無表情の青年が静かに横たわって居た。安らかに眠っているように。呼吸をしているよう

には見えないけれど、そのカプセルだけはまだ辛うじて生きているようで、色んな文字や数式が表記さ

れては消える。

　そしてその青年は片手に棒状の物を握り締めているようだった。

「大丈夫かな。まだ生きてる・・・・よね・・」

　取り合えずハッチを開こうと目に付くボタンを押してみる。しかしその度にピーと言う耳障りな警告

音がするだけで、一向に開く様子が無い。

「あー、もうッ！こんな事ならもっと勉強しておけば良かった」

　ブツブツ言いながらも、諦めずに手当たり次第ボタンを連打する。勿論開く気配は無く。警告音が響

く度に尚更苛立ちが募っていく。

「もう、開け、このッ！！」

　限界を超えた彼女は思いっきり両手をカプセルに振り下ろす。

「あッ！？」

　っと思った時はもう遅く、物凄い派手な音と共に両手に衝撃が走った。神経がジーーンと痺れる。

　その時、派手な警告音と共に一瞬光が眩く膨れ上がり。それが静まった後、静かにカプセルの機能も

停止したようにそこから光が消えた。

「こ、壊れて・・・無い・・よね？？」

　恐る恐る近寄るといきなりハッチが開き、シューッと気体を吐き出す音が響いた。そしてまったく動

かなくなる。

「え、えーと・・・・取り合えず連れて行かないと・・・」

　リアはあたふたと彼をカプセルから取り出し、肩に担いでその部屋を後にした。ランプが切れれば本

当の真っ暗闇になってしまう為、そうぼやぼやもしていられ無かったからだが。

「あーっ、もう。この棒みたいなの邪魔だわッ！」

　とにかく早く二人の下へと戻る。それしかリアの頭には無かった。それは彼の入っていたカプセルを

壊してしまったかも知れないと言う、多少の罪悪感が後押しした所為もあったのだろう。

　何にしても彼女は気付かなかった。彼に重みと言うものがまったく感じられなかった事にも・・・。

　そして誰も居なくなった部屋の中で一瞬だけカプセルが起動した事にも・・・・。

「kdaopbvajfoiajifhjbainarjgmaojbvaihbiaojgreoajojaopbj・・・・・・システム・ロンギヌス・・・・オール

グリーン・・・・・・・・・5375897847587384752834572-45728-090549578904・・・・・OK」

　そしてカプセルは完全に沈黙した・・・・。

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