人はそれでも活気付く

戦地外最前線

　相変わらず活気に溢れた集落だ。この鉄の集落には昼夜問わず、光と人が絶える事が無い。ここだけ

はキメラの叛意前と変わらないのかも知れない。

　いつ来ても皆生き生きとしている。頭で考える前にやらなければならない事があり、それがキメラへ

の恐怖から人を引き離しているのかも知れない。それは意図されたもので無いにしても。

　その点、自分達キャラバンとは対極に位置するのかも知れない。でもどちらも今の人類にとって必要

不可欠なものなのだろう。

「って、そっちじゃないわよ」

　慌ててふらふらと逸れようとしていた青年の襟元を掴んで引き戻す。考え事をしてる暇も無いとは、

今の彼女にも言えるかも知れなかった。

　彼女、ミルドリアは一人の拾った青年と共に長老の元へと向かっている。まずは長老にあいさつ、そ

れがキャラバンとしての第一の仕事であった。礼儀を示す事が、人と人の繋がりをより円滑にさせるの

だ、多分。

「まったく、しっかり付いて来なさい」

「すみません」

　ついきつい口調になるが、彼女の表情は柔らかい。とても憎め無いのだ。この青年が子供のように、

あまりにも無垢だから。

「何だか、自分でも解らないのですが。こう引き寄せられるように・・・視線が・・・。何か思い出せ

そうに、こうふっと・・・・。すみません、解らない事言ってますね」

　叱られる青年、ロンはまだまだ不器用な笑みを浮かべた。おそらくミルドの表情を見て、それでも彼

なりに察する事があったのだろう。リアなんかがこの姿を見れば、彼の多弁ところころ変わる表情にも

驚いたかも知れない。が、ミルドはリアでは無い。

「ふふッ、変わった人ね、君は」

　どちらにしても、ミルドもこういうロンを見て嫌な気はしなかった。変わっているが、変では無い。

言い方が解らないが、そんな感じだ。

「ま、でも無理も無いかも知れない。私も初めてここに来た時はそんなだったもの。見るもの、皆珍し

くて。はしゃぎすぎて、ギルガさんに怒られたりしたっけ」

「ギルガさんって、確かキメラバスターの？」

「ええ、私は隊長になるまではあの人のキャラバンに居たの」

「そうなのですか」

　ロンは素直に頷いている。ミルドはそれを見ると何だか物足りない気もしたが、それが何なのかは彼

女にも解らなかった。

　どちらにしても、今のロンに何かを期待する事が間違っているのだが。記憶を失い、精神的にはやっ

と子供になったくらいなものなのだから。

「とにかく、私の後にちゃんと付いて来なさい」

「はい、すみません」

　まるで姉と弟のようだ。歳はそう変わらないように見えるのに、とミルドはロンの真面目くさった顔

を見て思わず吹き出しそうになってしまった。

「そんなに畏まらなくて良いのに」

「そうなのですか？」

「ええ、そうなの」

　ミルドは何だか楽しくなって来ていた。にこにこしながらさくさく進んで行くので、周りの人が不思

議そうな顔をしている。これではどちらが子供か解らない。もしかしたら、ロンの童心がうつってしま

ったのかもしれない。

「？？？」

　ロンも訳が解らないと彼なりに色々考えながらも、出来るだけ他のものを見ないように彼女の背中を

追った。ミルドを追うのは難しく無かった。何しろ彼女は目立つ、彼女を見た人は九割方振り返るし、

その赤色の髪をした人もそう多くないのだから。

　ただ、何故か機械やらそう言うものに吸い込まれるように視線が行ってしまう。それは彼の意思では

無く、いや意思なのだろうか。ただそれは無意識の意思なので、彼にもどうしようも無かった。だから

それを防ぐにはミルドだけを見ているしかない。

　でも、そうすると何だかくすぐったいような、そんな変な感情が湧いて来る。それを防ごうとすると、

他に目をやってしまい・・・・・となるのだ。だから今、正直ロンは困っていた。

　そう、困っていたのだ。彼は自分の感情を持て余している。

　だが、彼にはそれすら解らないのだった。そしてまたミルドに引き戻される。ただ、彼はそれが嫌で

は無かった。それだけは解っていた。

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