育ち変化するのが感情

穏やかなり熱情

　そうこうしている間に大通りを抜け、住宅街に入った。

　機械やら何やらでごてごてしていた先程の風景とは打って変わり、シンプルで小奇麗な家並みが続く。

そのほとんどが鉄製の建物で、無骨で角張った印象も受けるが。それがこれだけ整然と並べられている

と、今度は小気味良くなってくるから不思議だ。

　他の集落には無い、鉄の景観。これが鉄の集落たる所以でもある。

　これらは工場跡等を解体、再建築されたもので。良く見れば戦禍の名残がちらほらと見える。

「ロン君、もう少しよ。ほらあそこがここの長老のおられる所よ」

　ミルドが指差した方には、一際大きな建物があった。そこだけは元の建物をそのまま利用しているよ

うで、あちこちに修理の痕も見えた。窓の配置から見ると４，５階立てはあるようだ。

　彼女の話によれば、ここの長老は常時ここに居て指示を出したりしているらしい。

「あれが人類の司令塔、と言ってもいいわね。数少ない現存する施設の一つよ」

　そう言うと彼女はまた颯爽と歩き出した。その建物まで付けられた一本道をぐんぐん進む。迷う心配

は無いので自然に足取りも軽く、力強くなると言うものだ。

　ロンはそれに静かに付いていく。鉄製の建物にも興味はあるが、あの引き込まれる感覚は薄らいでい

る。どうも自分は機械にのみ反応するらしい。良く解らないが、これが皆が良く使う、人それぞれ、と

言う奴だと思った。

　程なくして建物に到着した。ロンが立ち止まったりする心配が無いので、住宅街に入ってからはとて

もスムーズだった。だが、ミルドはそれも何だか物足りないように思う。自分でも何だか解らなかった

けれど。

「じゃあ、入るわね」

「はい」

　ミルドが正面扉の前に立つと、変な音を発して扉が勝手に開いて行く。

「うわッ！？」

「んッ？？ああ、そう言えば君は自動扉を見るのって初めてだったわね」

　彼女はロンの表情を見て軽やかに笑う。

「自動扉？？」

「ええ、こうしてここから離れると」

　ミルドが扉から離れると、またしても扉は変な音を発して勝手に閉まって行く。

「へええ、凄いですね・・・・」

　ロンはそれでこの扉の仕組みを理解したらしく、しきりに頷いている。

「じゃあ、今度こそ入るわね」

「はいッ」

　入ってから後ろを振り返ってみると、ロンが無邪気に何度も開閉をしているのが見えた。思わずそれ

を見て苦笑をしていると、警備員風の男が現れ何やら説教を受けている様子。

　ロンが指差し、警備員がこちらを見る。それで察したらしく警備員は最後に何かを言ってから、配置

に戻って行った。そして俯きながらこちらへ来るロンの表情の可笑しい事、可笑しい事。またもや思わ

ず吹き出してしまった。

「怒られてしまいました・・・・・」

「解ったら大人しくしてなさい」

「はい」

　そしてミルドは彼のこの素直さにも吹き出しそうになってしまったが、それは何とか耐えて歩きだし

た。ただ、顔が緩むのだけは防ぎようが無かった。

　こんなに笑ったりしたのはどれくらいぶりだろう・・・・。彼女はギルガとリックの事を思い出し、

合わせ技で堪えようも無く、今度は思いっきり笑ってしまった。

「？？」

　それをロンが不思議そうに見ている。

　それもまた、可笑しくて堪らなかった。

　警備員は今度は黙ってそれを静観している。もしかしたら彼も色々と耐えていたのかも知れない。静

かな建物内に彼女達の声は良く響くのだから。

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