生きてる遺産

カブトガニ

「これは・・・・・？？」

　機械音が室内を覆い尽くしている。電気の流れる音、キーボードを叩く音、ディスプレイから漏れる

駆動音、そう言ったものが所狭しと。

　ここは鉄の集落の、否、人類の首脳部。数少ない現存する大型コンピューターの安置された一室であ

る。性能自体はそれほど高いとは言えない。アポクリスプ等が使っていた最新鋭のもの等から比べれば、

遥かに落ちるかも知れない。だが、それでも現存する中では最高のものであると言える。

　数あるモニターの前には一人一人座って居て、それに映る景色をじっと睨んでいる。退屈な仕事なの

だろう、しかし皆常に懸命に見ていた。背負うものと使命感がそうさせるのか。

「凄いですね・・・・」

「まあ、今ではここくらいしか見れない景色だしね。ここでキメラ達の動向を探っているって訳なのだ

けれど」

　アリアがロンに説明しながら施設内を案内している。ミルドも付いているが彼女には見慣れた景色で

あるらしく、それほど興味を示している様子は無いようだ。モニターを見る時は険しい程真摯な目にな

るのだが。

　ロンは例の如く機械達に魅入られている。

　それでも意識の欠片はまだこちらに残っているらしく、相槌を打ったり感嘆の声を上げたりはしてい

る。どんなものにも抵抗力と言うものは働くものらしい。

「でも、監視できる区域は限られているし、傍受出来る通信も少ないわ。随分改良したのだけど、部品

も機材も少なくて、今はこれが限界ね。だから皆が思っている程、ここのコンピューターも万能では無

いのだけれど・・・」

　アリアはあくまで事務的にありのままの事を述べている。

「だけど、これでも人類の希望である事には違い無いの」

　彼女はそう言うと微かに溜息を洩らした。ほんの僅かではあったけれど。

「この映像はどこから来ているのですか？」

　ロンはそんな様子を気にする風も無く、彼らしく素直に疑問を問う。

「え、ああ、これね。このモニターの画像は人工衛星から来ているのよ。人がどんな状況だろうと、彼

らは変わらずこの星を回ってるってわけね」

「人工衛星？」

「えーっとね。簡単に言うと空に浮かんだカメラかな」

「？？」

　ロンは考え込むように首を傾げた。

「アリア、その例えだと余計に解らないわよ」

　ミルドがくすくすと笑う。

「失礼ね、じゃあ貴方が例えてみてよ」

「そうねえ・・・・空飛ぶ巨大カメラかな」

　その発言に今度はアリアが吹き出す。

「ちょっと、それだと私と変わらないじゃない」

「なによ、全然違うわよ」

　ミルドはむくれる。

「んーと、この星をぐるぐる回っている望遠カメラと言う事ですか？」

　ロンは相変わらず理解不能と言った感じだったが、それでも何か察する所があったらしくそう答えた。

「まあ、そんな感じね。ミルドリアもむくれてないで。あ、そう言えば森の集落の近辺がここ一週間程

嵐に包まれているらしいわ」

「一週間も！？」

　ミルドの表情が一変した。それだと火の集落に向かった班もずっと立ち往生している事になる。今、

森の集落に居るのは女子供と老人だけであるし、それも気がかりだ。

「ええ、いくらなんでも一週間もこの状況では変だから。急遽、ギルガさんの隊に調査を依頼したの」

　キャラバン隊には一隊に一つ携帯通信機が渡されている。緊急時等、よほどの時しか使わないが。

「ギルガさんに？でも、それだと物資の運搬が・・・・」

「大丈夫よ、隊の半分は通常どおりそのままルートを移動してもらうから。それに人間達はキャラバン

が無くても生き延びて来たのよ」

　アリアが微笑んで片目を瞑る。ミルドはそれを見て少し安心したようだ。人の心は伝染する、恐怖も

ならば安心感も然り。

「そうね、心配してたって何が変わる訳じゃないから。私達は私達の仕事をするわ。じゃあ、アリア、

私達はもう宿に戻るわ。今日はありがとう、楽しかったわ」

　ミルドはアリアに微笑み返す。

「ええ、頑張ってね。ロン君もきっとまた来てね」

「あッ、はい」

　静かだと思ったら、ロンはじっとモニターを眺めていたようだ。

　そこには風に倒される木々と、巻き起こる粉塵が映し出されていた。　

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