まばらな景色

風雲

　衣服を引き剥がされるように葉が引き剥がれ。限界まで引き伸ばされた枝が、堪えようも無くもぎ取

られ飛ばされていく。

　巻き上げられる小枝が頬に当たり、落ち葉が顔に張り付いて邪魔で仕方が無い。ギルガは面倒くさそ

うにそれを払い落している。

「マスクでも付けてくれば良かったな」

「ええ、これではまともに前も見えません」

　横で目の上に手を乗せながらリギドもうめいた。

　それを聞きながら、何故かギルガは物足りなさそうな表情を浮かべている。

「ギルドさん、どうかしましたか？」

「いや、何でも無い」

「それなら良いのですが。それよりもこれからどうしますか？」

「ん、そうだな」

　ギルドは前方を睨む。

「取り合えずこの嵐の中心に向かう。他に当ても無いしな」

「なるほど」

「しかし面倒くせえな」

　相変わらず襲いかかる葉と枝を払い落としながら、ギルドは憮然とした表情に変わっている。時折、

勢いを増した葉が掠め、その身を切裂いていく。小煩さそうに身を揺らすと、バラバラと葉枝が落ちて

風に巻き込まれる。

　流石のキャラバン隊員もこれには閉口しているらしく、歩速も随分緩やかになってしまっていた。

「ここまで来たら、行くしかないぞ！さっさと足動かせ！」

　ギルガがけしかけるが、如何せん効果は薄い。どの顔にも疲労が色濃く見えている。

「仕方が無い、ついて来れない者は後で来い！行くぞリギド」

　ギルガは痺れを切らし、左腕を盾にしながら嵐を切裂くように突き進んで行った。

　リギド以下数名がそれを必至に追う。ほとんどの者は蹲るように歩みを止めた。風がそれを嘲るよう

に唸っている。

　

「大丈夫でしょうか」

　火の集落では、エンリ長老が未だ収まらない嵐を窓から眺めていた。ギルド達が出発してから、彼女

はずっとこの光景を眺めている。他の住人もそれぞれの家で同じように眺めている事だろう。

「ギルガさんなら大丈夫です」

　横から同じように見詰めるレジトがそう答える。彼はギルガに言われた後からずっと長老の雑務の補

佐をしていた。森の集落でも度々やっていて事なので、もう手馴れたものだ。

「そうですね、あの方ならば心配は要りませんでしょう」

　エンリは楚々と和やかに微笑む。

「はい、我々は安心して待っていれば良いのです」

　リギドはそう言うと机へ戻り、再び書類に目を通し始める。事務仕事だけで言えば、彼以上の人材も

そういないかも知れない。

　適材適所、彼を見ながらエンリの頭の中にはそんな言葉が浮かんでいた。あれほど苛々していたのが

嘘のように落ち着いて仕事をこなしているのだから不思議なものだ。その言動の端々にまで余裕のよう

なものが出始めている。

「そうですね。では私達は私達のやるべき事を為しましょう」

「はい」

　エンリも今まで飽きる程にやった仕事へと、再び向かい始めた。

　ギルガ達の無事を祈りながら。

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