反して緊張満場

感付く和音

　開けた場所には尾の白い大鷲が三体、まるで踊るように飛び回っているのが見えた。よく聴き取れな

い甲高い声を上げながら、縦横無尽に飛び交っている。だが不思議とその羽ばたきが肌に感じられない。

そう、風を感じない。

　視線をゆっくり落とすと、尾白鷲達が踊る丁度中心にくぐもった音を立てる奇妙なモノが置かれてい

た。それには外装は無く、歯車のようなものやチューブ等がごてごてと重なり合っていた。如何にも奇

妙で不可思議なモノだった。

　とにかくそれは動いているらしい。ブルブルと揺れている。

　それらがはっきり視認出来る程に近付いても、尾白鷲達は気付いた様子も無く、一心に踊りつづけて

いる。

「あれは・・・・・」

　リギドが小声でそっとギルガに問う。

「紛れも無くキメラだな、見ろあの鳥共の顔を」

「あッ」

　尾白鷲の頭部には、いや正確には顔のみだが、鳥のものでは無く人間の女の顔が張り付いていた。剥

き出しの乱杭歯が如何にも醜い。しかも顔自体は美しい女性なので、余計に不気味に感じる。それらが

ギャアギャア喚きながら飛び交っているのだ。

「あんまりじっくり見て良い顔じゃねえぞ。しかしハーピーか・・・、面倒だな」

　似たキメラに割りと有名なセイレーンと言うのも居るが、それよりも遥かに凶暴で醜い。知能は鳥と

変わらないので間抜けだが、その分しつこく無慈悲となる。何にしても非行型は厄介な事この上無い。

「ギルガさん、どうしましょうか」

「んー、お前はまたそれか。そうだな、取り合えず銃をぶっ放すしかあるまい」

「そんなので良いのですか？相手は三体も居ますよ」

「なら他に良い手でもあるのか」

「いえ、それはありませんが・・・」

　ギルガはそれを見て、今度は諭すように言葉を紡いでいく。静かだが威厳のある声で。

「いいか、わしの見た所あの機械がくさい。まあ、見れば解るがあれがこの嵐の原因だろう。しかし、

あれをただ破壊すればいいと言う訳にもいくまい。ハーピーを逃せばまた嵐を起こす。ハーピーは単独

でもかなりの風を起こす事が可能だからな」

「ギルガさん、詳しいですね」

「お前等が知らな過ぎるのさ。とにかく、あいつらをやらないと解決しない。こいつらは単独型のキメ

ラでもあるが、危なくなると仲間を呼びやがる。一気に素早くだ、解ったな」

「了解」

　とは言うもののどの隊員の顔も強張っている。

　こっちは６人、倍の兵力差くらいではむしろ危険と言って良い。ギルガは背中の長刀に手をかけた。

「良いか。まずわしが行く、この刀なら一体は楽に屠れる。そして残りが驚いている隙に銃で撃ち殺せ」

　苛烈な言葉であるが、容赦出来る相手では無い。むしろこちらが容赦される立場なのだから。

　隊員達はごくりと唾を飲み込んだ。その音があまりにも大きく聴こえたので、少し慌てたが。しかし、

ハーピー達は相変わらず気付く様子も無かった。

「頼むぞ、わしの命はお前等次第なのだからな」

　遅れれば怒り狂ったハーピーの牙爪に無惨に切り開かれてしまうだろう。後は美味しくいただかれる

だけだ。

「よし、行くぞ」

　そしてギルガが跳ぶ。

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