急襲は一瞬で

絶つ一閃

　大きく跳躍したギルガの巨体が一体のハーピーと交差する。その瞬間、背中の長刀を一閃。日に照ら

された刀身が眩いばかりの光を発したかと思うと、それを覆い隠すようにどす黒い青緑の鮮血が辺りを

染め変えた。

　どさりと叢に落ちた肉の残骸は見事すぎる程に真っ二つに分断されている。

「キェーーーーー、グェェェェエエエーーーー」

　残る二体が異変に気付き、甲高い悲鳴を上げた瞬間。くぐもった発火音がそれを打ち消すように鋭く

４度響いた。

　そして一体は無様に地面に落下、ぐしゃりと言う気持ち悪い音と共にそれもぐったりと血に染まった。

「キェェェェェッェエエエーーーーーーーーー！！」

　残る一体は片翼の半分を吹き飛ばされ、如何にもスピードが落ちているものの、バタバタともがくよ

うに空を泳いでいた。

　だがそれも数秒の事で、狙い済ましたようにハーピーの眼前に現れた男の持つ筒から火が吐かれ、無

数の弾丸が残った一体を散々に貫いた。

「ギュェッ、グェッ、ゲッ」

　そして声にもならない絶叫を上げ、眼前の人間を遥かに睨みながら静かに地面に落下した。

　正しく一瞬の出来事であったに違い無い。パズルが連鎖して消えるように、キメラ達はその命を儚く

も消されてしまったのである。

　そしてそれに合わせるように、あれだけ吹き荒れていた風がぴたりと止んだようだった。風の境界線

に見えた、荒れた景色ももう目に映らない。

　残ったのは飛び散った液体と肉塊、そして緊張の糸が解け、へたり込むように座る男達とそれを見据

える漢だけだった。

「上手くいったみてえだな」

　漢は手にした長刀を鋭く翻しながら言った。まるで吸い込んだように、刀身から異物が消える。

「ええ、こんなに上手く行く事もそうそう無いと言うくらいに」

　リギドが嬉しそうにそれに答えた。皆、安堵したような表情を浮かべている。

「どうやらこいつらが起こしていた嵐も消えたみてえだし、後はこれを片付ければ終わりだ」

　ギルガは再び長刀を一閃しようとして、ふと考え込むように渋い顔をした。

「どうかしましたか？」

「ああ、こいつをただ壊すのも勿体ねえと思ってな」

「でも、キメラどもの得体の知れない機械ですよ」

「いやキメラはキメラ、機械は機械よ。それを言うならわしのこの鬼斬丸もキメラ同然だしよ」

　ギルガはそう言って長刀を鞘に収めた。

「鬼斬丸？」

「ああ、この刀の名前さ。さてこれも運ばないとな」

　そう言って剥き出しの機械を無造作に掴み取って肩に担ぐ。リギドはそれを見て、よく得体の知れな

いモノをこうも簡単に掴めるなんて。と変に感心した。

　しかし鬼を斬ったから鬼斬丸とは、ギルガも解りやすい性格である。まあ、リギドはその経緯は知ら

ないのだが。

「ともかく任務完了だな」

　それを聞いて、今度はギルガ隊の一人が彼に問う。

「今後はどうしましょう？今から追いかけてもリック副長には追いつけませんが」

「ああ、そうだな。さて、ならば久しぶりにミルドに会って行くかな」

「了解、戻ったらそう伝えます」

「ああ、悪ィな。さて、戻るか。あいつらも鍛え直さねえといけねえしな」

　あいつらとは嵐の中心に来るまでにへばった者達の事だろう。何にしても気の毒な事である。

　こうして、不可思議な嵐の一件は解決するに到った。しかし、人間達はその意図が何であるかはまっ

たく解らないままに。

　そして何を祝福したか、ギルド達の帰路で僅かに虹が見えたと言う。

BACK・ EXIT・ NEXT