指令

帰還一路

「ギルガ隊より通信入りました。任務完了したとの事」

「そう、ご苦労様でしたと伝えて」

「それが、すでに切れております」

「あの人らしいわね」

　アリア長老はその艶やかな顔に淡い苦笑を浮かべた。

　その区画を映していたモニターからも綺麗に嵐が消えている。キメラの意図は解らないままだが、と

にかく大きな被害がでなかった事に感謝するべきだろう。

「それともう一つ伝言を預かっているのですが」

　通信士は続ける。

「何でも嵐の中心部より妙な機械を入手したとの事」

「妙な機械？」

「ええ、それ以上は何も」

「そう、そうなると調べる必要があるわね・・・・」

　アリアは腕組みをしながら頬に人差し指を当てる。彼女が考え込む時にやる癖である。

「んー、もう少し早ければミルド達の隊と一緒に調査団を派遣出来たのだけれど」

　ミルド達が発ってすでに五日。彼女達の隊は今頃は遥か彼方。

「仕方が無いわね。またギルガさんに頼みましょう。でも怒るかもしれないわね・・・・」

「そうですね、何せギルガ隊長ですから」

　その場の誰もが頷いた。

「うー、でも他に方法も無いし・・・。とにかく頼んでみて」

　アリアは通信士に向けて、手を合わせて必至に訴える。

「解りました・・・・、伝えるのが私の役目ですし」

　通信士は諦めたように通信を開始し始めた。表情は暗い。

「ギルガ隊長ですね。実は・・・・・・、ええ、ええ・・・・・そうです、是非にと・・・・・・ええ、

はい・・・・はい・・・・・え、良いのですか？・・・・ああ、いえ・・・・はい、はい・・・・・で

はお願いします・・・・はい、では幸運を・・・・」

　深い息をゆっくりと吐く通信士にアリアが恐る恐る尋ねると。

「大丈夫です。来ていただけるそうです。何でもあちらも見てもらいたいものがあるとかで、運が良か

ったです」

「そう、それは良かったわ。ああ、良かった・・・・・」

　アリアも一息をつく。

「それから、ミルド隊が森の集落に到着次第、折り返しこちらに向かうとの事です。何でも、集落移転

作業で手が離せないそうですので」

「そう、解った。キメラ達の動きが怪しいから、用心するに越した事は無いしね」

　そして全員が再びそれぞれの仕事に忙殺され始めた。

「森の集落までもう少しね」

　一方ミルド隊は順調に行軍しつつあった。幸い一度もキメラに遭遇する事も無かった。この分でなら、

予定よりも早く集落へ到着出来そうだ。

「では、休憩しましょう」

　ミルドの一声で、各々手ごろな岩等に座り、休息を取り始める。

　見通しが良く、ある程度障害物となる木々や巨石があるので野営をするのに正にうってつけの場所だ

った。見張りを数人立たせ、暗くなる前に焚き火を焚いておく。火があればキメラに発見される危険性

も増すが、明かりが無い方がそれ以上に危険になる。

　人間はキメラと違って夜目が利かないのだから。まあ、利く者も居るにはいるが数が少なすぎる。

「もう、今日はこのくらいにした方がいいわね・・・・・」

　日はもう大分落ちて、辺りは少しずつ朱に染まりつつあった。

　彼女は此処で一晩明かす事を決め、それを全員に伝えた。

　今日も静かな夜になりそうだ。

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