誰に付く？

フォローミー

　疲れ果てた鉄の集落からの帰還者達の半数は、折角長老が用意してくれた風呂にも入る事無く、文字

通り倒れ込むように睡眠を取った。それらは主に青年団員で、ここにもキャラバン隊員との明確な体力

差が現れている。

　そして一夜明け、全員が移転作業に取り掛かった。

　住居は大平原地方に独特の移動式家屋を真似て作ってあるのだが。それよりは解体にも再築にも少々

時間がかかる。その分しっかりと建つ。

　作業は数班に分割され、レジト、ミルド、ラフィアスがそれぞれ指揮をとっている。

「この手の作業なら我等が一番慣れているはず、遅れをとるな」

　ギル、レイは青年団員としてレジトの指揮の元に居る。

　レジトはキャラバン隊員との体力差に何故か負い目を感じているらしい。当然作業達成率から言って

も負けている事にも不満を感じているようだ。団員に発する言葉も、日頃よりも鋭く厳しい。

　どうやら不思議な危機感を持っているようで、自分がリーダーとして何とかしなければと考えたらし

い。キャラバン隊を深く意識しているのが、傍から見ても解る。

「荒れてるね、レジトさん」

「ああ、確かに大した事も出来なかったからな」

　レイやギルも勿論、それを察していた。青年団員の間では帰還からはその話題が主になっていると言

っても良い。

「でも、キャラバンと僕らを比べてもね。初めから比べる相手が間違っているよ」

「ああ、俺もそう思う。でもレジトさんの言い分はそう間違っている訳じゃないからな」

「まあね、いくら武器があっても使いこなせないと意味が無いしね。僕達でまともに戦えるのは、ギル

と・・・ロンくらいじゃないかな」

　ギルはキャラバンに憧れているだけあって、戦闘に関する知識は長老の次くらいに詳しく、キャラバ

ンが訪れると足繁く通って色々と教わってもいる。引き換え、一般の青年団員は訓練はしているとは言

っても、所詮は我流の田舎銃術であり組織的な動きは鈍重と言える。

　レイやレジトも例外では無く、この二人はこの集落でも抜きん出て知識等はあるにはあるが。生来の

文官肌の為に、いざ戦うとなれば口程活躍出来ないだろう。それを解っているのはレイの方だけかも知

れなかったが。

「ロンか・・・、そう言えばあいつはミルドさんの方だったか？」

「うん、そうだよ。何でもミルドさんの希望だとか言う話だよ」

「ふうん」

「ふふ、羨ましいかい。ギル君」

　レイが材木を片しながら、茶目っ気たっぷりに微笑む。

「なッ、何を言ってるんだ」

　ギルは珍しく慌てた様子で表情に余裕が無い。隠そうと無意味に作業速度を上げようとするのが、少

し面白く感じた。

「はは、流石のギルもミルドさんにかかったら骨抜きみたいだね」

「くッ、お前こそじっと見てたりしてたじゃないか」

「う、見てたの？趣味悪いよ、ギル」

　レイは誤魔化すように大げさに溜息をついた。

　それから不意に真面目な顔つきになり。

「でも、確かにロンは気に入られてるみたいだけど。多分、側に居させようとするのはそれだけじゃな

いよ、きっと」

　ぽつりと呟くように言った。

「ああ、きっとそうだな」

　ギルも何事かを頷く。

「そう言えば、ギルガさんもすれ違い様に見てたような気もするしな」

「やっぱり、ロンには何かが・・・・きっと」

「ああ、でも例え何がどうであろうと。俺達は俺達の」

「うん、変わらないよ。ロンに何かあるとリアも悲しむしね」

　二人は材木の束を括って肩に持ち上げた。この二人はいつもこうして何でもペアでやってきた。

「その為にも、やっぱり俺等も変わらなくてはならない」

「うん、もっと知識を」

「そして、それを活用する術を」

　二人は共に頷き合うと、再び懸命に運び始めた。

　時間の流れは衰える事無く、静かに日々を進めさせる。

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