無意識の意志に

造神の審判

　押し潰された大気が噴出し、まるで巨大な岩が吹き荒れるように周囲の木々を押し潰し、大地を剥ぎ

取って行った。

　一陣のその嵐の後、陥没した大地に無惨な光景が広がっている。

　身体中をへし折られ大地に突き刺さる者、吹き飛ばされたあげくに木の枝に貫かれている者、衝撃で

意識を失っている者、浅深人それぞれだったが、皆満身創痍と言う点ではほぼ共通していた。

　意識の無いくぐもった苦声が湧き出るように溢れる。

「コォォォオオオオオオオ」

　インドラは昂ぶったものを吐き出すように一つ呼吸し、振るった腕を静かに上げる。

　ほとんどの人間は気を失っており、意識のしっかりしてそうなのはミルドとラフィアスぐらいのもの

だった。ただ、ラフィアスの体は朱に滲んでおり彼はもう満足に動けないようだった。もがくように手

足を動かしているようだが、震える程度にしか動かない。

　ミルドも咄嗟に地面に伏せる事で、他の者よりもいくらかはマシな状態だったが。インドラの風迅で

飛ばされた石が、頭を防いでいた両手にいくつも突き刺さっており、愛用の槍も満足に握れない有様だ

った。

「たった一撃で壊滅なんて・・・・・」

　インドラは元々拠点殲滅用に創られたキメラだと聞いた事がある。軍事施設や大都市を相手に設計さ

れた兵器に、人間がいくら束になった所で相手になる訳も無かった。

　もし五体満足であったとして、戦女神と称せられた彼女でもどれほど戦えただろう。いや、もう戦い

にさえならなかったかも知れない。

「でも、私が・・・・・やらないと」

　痛む腕を叱咤しながら、槍にすがりつくようにゆっくりと立ち上がる。握力が体を支える程にも残っ

て無いので、槍に歯を立ててそれを補った。歯茎がじくりと痛む。

「まだ立てる者が居たとは・・・・。人間の女よ、塵ほどにも感じられぬその身体でどうしようと言う

のだ。そのまま、大地にひれ伏しておれ」

　軽くインドラが腕を薙ぐと再び風が巻き起こり、ミルドの身体を呆れる程簡単に弾き飛ばす。そして

回転しながら５ｍ程飛び去り、地面にバウンドして止まった。

「うぐッ・・・・」

　骨は折れずにすんだようだが、もう先程までの気力は綺麗に吹き消されていた。

　そして死を覚悟しつつ、それでもいくらか残っていた意志で何とか目だけは開ける。

「裏切り者め・・・、我が王にも並ぶ力を与えられながら、たかが人如きの命に従うか。お前に命じた

者はとうに滅ぼされたと言うのに律儀なもの・・・・。所詮はただの道具だったか」

　インドラは静かに歩む。その度に舞い上がる風で、頬に小石が当たった。

　一体何処に、そして誰に向かっているのか・・・。

「我等強者が弱者に従う道理は無いのだぞ、化生の者よ。何故我等に敵対する・・・何故なのだ」

　残る意志力を振り絞って、何とか少しだけ頭の向きを動かす事が出来た。

　インドラの向かう先に見えたものは・・・・。

「・・・・ロン？？」

　あの不思議な青年が静かに立っていた。巻き起こる風にも微動だにせず超然と。

　そして彼の右手に淡い光が見えた。薄く柔らかいが、何事も干渉出来ない力強さを感じる。いや、存

在感と言ってもいいかも知れない。そこにあれば、それ以外のモノはそこにいなくなる。そんな強靭な

気配を。

　インドラは尚も近付く。ただロンに近付けば近づくほど、不思議にその巨体が小さくなるように見え

た。

「答えよ・・・・応えよ・・・・何故、何故」

　ロンは全てから隔離されたように、ただ静かに立っている。否、ただそこに居る。そう、居るだけな

のだ。

　しかしそれに反するように右手の輝きは増していく。

「発動すれば、言葉さえ持たぬのか・・・・・。哀れ、憐れ・・・・ならばせめて我が滅してやろう。

そして我等の同朋に詫びるがよい」

　インドラは再び金剛杵を持つ腕を振り上げた。

「コォォォォオオオオオオオオ」

　そして死の審判の一撃を放つ。

　ミルドの視界は滲むように霞んだ。

BACK・ EXIT・ NEXT