雷帝落つ

双雷響閃

　けたたましい大音響と共に、膨れ上がり圧縮した大気がロンを包む。

　そして破裂、夥しい風が幾薙ぎも吹き荒れ、再び大地を揺らした。

「くうッ」

　ミルドは慌てて目を塞ぎ、力を振り絞って片腕で頭を護った。小石や枝が傷ついた腕に何度も当たる。

鈍い痛みが腕を走り、絶望が心を包む。

　ようやく風もおさまり、静かに目を開ける。

「！？」

　驚いた事に、その暴風の中心に居たはずのロンは小揺るぎもしていなかった。その代わりとでも言う

ように、地面に突き立てられた右手の槍がゆるゆると振動している。

「ぬ？」

　流石のインドラも驚いたように、二度程静かに後退った。

　ロンは静かに槍を抜き放ち、眼前に構える。細長い槍先が輝き放つ。

「対一種殲滅・・・・グングニル！！」

　槍先は更に振動し、ロンの右手から注がれるように槍全身が光に包まれ、ビリビリと纏う大気を震わ

せる。

「面白い。どちらが真の雷神たるに相応しいか、今こそ決してくれよう。雷神の力を使うがいい、化生

の者よ」

　インドラはその四本の腕を解放する。

　そして唸るような鈍い音と共に、大気と雲が激しくうねる。

「コォォォォオオオオオオオオ」

　吐息に呼応するかのように極太の雷がインドラに落ちる。二度、三度、四度・・・・・轟音と共にそ

の直進上の大気とあらゆるモノを巻き込みながら。

　ミルドはあまりの眩しさに、閉じた瞼の上から目を引き裂かれるような痛みを感じた。まともに見て

しまえば失明してしまったかも知れない。先程頭上に翳した片腕が光を遮り彼女の目を救った。

「我が真の力を見せてくれる」

　四つの武具に宿った雷光がバリバリと音響を奏でる。

「タイプ白兵・・・・トールハンマー・・・・起動・・・」

　ロンが手にする槍を包む光も発電するように稲光を発し、まるで稲妻そのものを掴んでいるようだ。

　先に動いたのはインドラの方であった。

　その名に違わず雷のように瞬時に接近し、槍を持つ手を振るう。次いで轟雷が弾け飛び、辺りに三度

電光が疾走る。

　二つの槍は食い合うようにギリギリと噛みあっていた。

「我と力比べとは笑止」

　槍同士が軋み合い、悲鳴を上げる。

「フゥオ」

　ロンの持つ一本の槍に向けて、インドラを残る三つの武具を叩き付けた。光がパッ、パッ、パッと三

度弾く。

　そしてインドラはそれらに全身の力を乗せた。

「む？」

　しかし予想に反して、そのたった一本の槍は変わらず小揺るぎもしない。それどころか益々光を強め、

そこに圧力すら感じられる。

「馬鹿な・・・・我はインドラぞ」

　再びググッと真力を込める。その度に漏れ出た雷が木々を撃ち、割れ落ちた木塊を燃え上がらせた。

　しかし、ロンの槍は微動だにせず。　

「・・・・・トールハンマー・・・・発動・・・」

　瞬間光が暴発した。

　それ以外に表現のしようも無い。溢れる程の光がインドラの四腕を吹き飛ばし、視界を貫く。

　次に感じたのは消失感。左上半身の感覚が瞬時に消え失せた。

「！！！！！！！！！！！」

　声にならない叫びを上げ、憎むべき敵を睨みつける。

　その手の雷槍は今もそこに在ったとするならば、左胸の辺りを貫いていた。そして誇るべき二本の左

腕とその手に握られた武器も在る場所には無い。

「おのれ、この恨み忘れぬ。忘れぬぞ」

　インドラは現れた時と同じく、雷に乗って何処かへと消えて行った。見事な撤退と言う他は無い。

　そしてロンの雷槍からも光が霧散し、周囲に熔けて行く。

　後には人の呻き声と炎上する木々が残った。

　太陽は中天に輝き続けている。

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