妖しの夢

世界蛇

　キメラは遺跡を好む。おそらく、自らの生まれた場所に近いからであろう。それはキメラ達が自然界

とは一線を画する存在である事の証明でもある。

　生活環境を破壊された人間は自然に還ったが、キメラは何処に還るのか。

　キメラの開発国の首都、アポクリスプの国営研究所が在った場所に彼等の王が居る。もはや神とすら

言える威容と力を持つキメラ王ミドガルズオルムでも、生まれた場が一番懐かしく住みやすいのは変わ

らないようだ。人間で言えば、その施設がキメラの母体に当たるのだろう。

　キメラ達はここの合成装置だけは破壊せず、今も同胞を生み出し続けていた。ただ、ミドガルズオル

ムですら上級種を生み出す事は出来なかった。彼が生み出せたのは、下級種と呼んでいる無智で獣に毛

が生えたような者達だけなのだ。元々キメラは上級種のみの存在であったのだが。

　上級種を生み出せた唯一の存在、ロキ・サリアス博士は彼の私設研究所ごとミドガルズオルム自身が

滅ぼしてしまった。皮肉な事に地上の覇権を握ったキメラ種は、それと引き換えに緩やかな滅亡を享受

する破目に陥ってしまった。

　人間はこの事実を知らない。まあ、知っても慰めにもならないだろう。キメラの寿命は果てしなく長

いのだから。

「ミドガルズオルム様・・」

「何用だ」

　王は長大な身体を揺すり動かすように、ゆっくりとその目を見開いた。

　ルビーのように赤く透き通っている。

「インドラが彼の者を発見したようです」

　王の眼前には蝙蝠のような羽を生やした異形の者が、今は羽を収め静かに座している。見目恐ろしい。

「そうか・・・・。それでインドラめはどうした。仕留めたのか」

　低く良く通る声は、それだけで畏怖せしめる。異形の者、ガーゴイルは固まったように先程から少し

も動かない。動けないのかも知れないが。

「それが・・・どうやらしてやられたようで・・・」

「・・・・あやつもその名程役に立たぬか・・・」

　王は不機嫌そうに身体を揺すった。それだけで、まるで局地地震が起きたようにも感じられる。その

名に違わず恐ろしい程巨大な体躯をしている。今もガーゴイルの視界にはその口しか入っていない。

「如何致しましょうか」　

「彼の者を捕えよ。出来ねば誘い出せ。調べれば同朋を生み出す術が見付かるかも知れぬ」

「それではそのように」　　

　ガーゴイルは静かに飛び去った。

「ケルベロス、鬼・・・・自ら同胞を屠るとは愚か者め・・・」

　王は再び静かに目を閉じた。

　キメラの見る夢は・・・・。

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