反発力

蹂躙の挽歌

　森の集落は数人の死傷者と半数にも及ぶ重軽傷者を出した。

　その中にはキャラバン隊長ミルドと長老ラフィアスの姿も在った。特にミルドは両腕に深刻なダメー

ジを負っており、暫くはまともに動かす事も出来ないとの事だった。ラフィアスも無数の傷と火傷を負

っていて絶対安静の状態である。

　集落が在った場所はインドラの残した炎でほぼ全焼し、移転がほとんど終わっていた為に被害は少な

かったものの、数件分の家屋の資材も焼けてしまった。

　今は一番雑務に精通しているレジトを村長代理とし、移転地で復旧作業に取り掛かっている。死者の

埋葬とこの作業を初めて一週間、ようやく集落に落ち着きが戻りつつある。

　そして療養所として使っている住居の前に立つ、二人の青年が居る。

「ラフィアス長老とは話が出来るんだよね」

「ああ、でも長居は出来きないぞ」

「解ってる。じゃあ、手早く済ませないとね」

「ああ」

　レイとギルである。二人ともインドラ襲来時の一撃で気を失ってしまい、記憶が無かったが。幸いに

も吹き飛ばされた場所に木々が無かったのも手伝って、どちらも軽傷で済んだ。その為、今は全快して

いると言っていい。

「あれ、二人ともお見舞いに来たの？」

　二人にリアが微笑みながら、問い掛ける。

　怪我人の治療は女達が交代で当たっている。今は静かだが、少し前までは戦場よりも忙しかったはず

だ。彼女達の献身的な看護のおかげで助かった人が何人も居る。

　その中でもリアは長老から教えられただけあって、薬草の類に長老に次いで詳しく最も貢献していた。

「うん、ちょっと長老にね。具合はどう？」

　レイが労うように笑みを向ける。

「まだやっと起き上がれるようになったくらいかな。だから面会はなるべく１０分くらいにしてね。そ

この奥の部屋だから」

　リアを呼ぶ声がする。彼女だけはまだまだ忙しい。

「御免ね、呼んでるから行くね」

「ああ、リアもあまり無理するなよ」

「ありがと、ギル」

　リアは笑顔を絶やさず、他の怪我人の方へ向かった。

「凄いよね、リアも」

「そうだな。・・・俺達も邪魔にならないように手早く済まそう」

「うん」

　ドアを開けると、小さな部屋に一つだけ置かれたベットの上にラフィアスが横たわっているのが見え

た。以前よりも痩せてしまったように見えるが、顔色はそんなに悪く無い。

「なんじゃ、珍しい客じゃの」

　ラフィアスは顔をこちらに向けて、目だけで笑った。まだ火傷が痛むのだろう。そう酷い火傷ばかり

では無いものの、何せ数が多い。全身がじくじくと痛むのは屈強の男でも耐えられるものでは無いだろ

う。

「して何用かの。悪いが手短に頼むぞい」

「解ってます。お手間取らせません」

　二人は長老の傍に寄り、なにやら話し始めた。

　程なくして、ラフィアスは静かに頷き。

「うむ、ではわしから話を付けておこう。しかし、それならばそれまでにやる事が多いぞい。時間を無

駄にするな」

　そう言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。

　二人の青年は頷き合い、静かにその場を辞した。

　眠りに浸る長老の顔は微かに綻んでいる。

「人間は絶望する事を忘れたらしい。雑草等よりよほど強いわい」

　後で様子を窺いに来たリアに、長老の安らかな寝息が聴こえたと言う。

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