世捨て人か情熱家か

仙人学士

　ギルガがアリア長老に例の剥き出しの機械を預けて３日が経った。その間、副長リックの行程を聞い

たりしていたが。森の集落へインドラが襲来した事等を知らされ、驚くと共に彼は危機感が募っていく

のを感じた。

　人間は知らず知らず追い詰められているらしい。

　それはキメラが脅威を覚える何かがある事の証明でもあるのだが、最早その希望的見解を上回る程の

スピードで情勢は人間にとって不利になっている。元々、まともにやりあえば全滅するのが解りきって

いるから、こうして隠れ住んでいるのだ。

　ただ、むやみに活動を起こしても逆効果だと言う事を、彼は経験上知っている。だから今は。

「やれる事をやっているのみだ」

「ん、何か言いましたかな」

「いやいや、何でも無い。それより何か解りましたかい？」

「んー、それが中々・・・」

　ギルガはアリアの了解を得て、彼の愛用のキメラ刀、鬼斬丸を調べると共に調整してもらっている。

剥き出しの機械の調査結果が出るまで少しかかるらしいので、個人的な用件をその間に済まそうと思っ

たのだ。

「ま、心配なさらずとも、全てを知らなくても調整も改良も出来まするよ」

　そう言って、白髪で皺だらけの顔を無理矢理引き伸ばしたような笑みを作るこの男の名はリグ・ヘイ

ム、これでも著名な科学者であり、ロキ・サリアス博士に並ぶキメラ学の権威である。

　ただこの男、ロキ博士がピーマンより嫌いだったらしく。シンクタンク・アポカリプスよりの誘いを

あっさりと断り、独自に研究を進めていた。実を言えば、この今では数少ない生きている研究所は元々

この男のものなのである。

　戦乱に巻き込まれない為の徹底した隠匿設備は今も随分役に立っているが、そこまで隠棲する事から

もこの男の性格が解ると言うものである。

　ようするに、変わっているのだ。もっとも、古来天才と呼ばれる頭脳を持つ者は、得てして凡人には

理解出来ないものなのだが。

　とにかく、どうもギルガとは相性が良いらしい。

「まあ、由来などはこの際どうでもいいんだがな」

「そうであろう。道具は使えれば良いのさね」

「じゃあ、解った事だけ教えてくれや」

「うむ」

　そう言うとリグ博士は歳に似合わぬ軽快な足取りでスタスタと鬼斬丸の傍に寄り、静かにそれを抜き

放った。

「お察しの通り、これは間違い無くキメラ鋼さ。しかもかなり出来が良い。これだけの物を作れるのは

あのロキめ以外にはおるまいて。悔しいが、キメラ創造だけはあやつには及ばん」

「ふむ、それで」

「それだけさね」

「それだけだと！？」

「ああ、他には何も解らん。あやつの創ったものなら、他のキメラと同じく何かしらの特殊能力が付与

されておると思うが。うむ、それがさっぱり解らんよ」

　リグ博士は両手を上げてそれを表した。

「まあ、今少し調べてみるが。こういうものの原理は創った者にしか解らん。神が何故こんな世界を創

ったのかも、神にしか解らんように」

「そうか・・・」

　ギルガは少々がっかりしたように肩を落とした。ロキ博士亡き今、この博士に解らないとあればもう

他に手段が無い。

「まあ、それほどがっかりするなて。先ほども言うたが、解らないなりにも出来る事はある。それにそ

の刀の効果も使っていればいずれ解るさ。元々調べようなんて、お主らしくもない」

「そう言われればそうか。わしには実戦で試す方が性に合ってる。なら、暫く頼むわ」

「うむ、任せておけ。お主に合わせて整備しといてやるさ」

　ギルガはそうは言ってその場を後にしたものの、他にやる事も無く。

「待つのは性に合わん」

　とブツブツ言いながら、取り合えず歩きだした。

　その気まぐれな足取りは、そのまま人類の行く末を暗示しているようにも見えた。　

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