戦慄の最終夢

不自然な自然

　そして更に数日、ギルガはアリアに呼び出された。手持ち無沙汰な日々を送っていた為、勇んで駆け

つけた。あまりに早く現れたので、皆びっくりしてしまったようだ。

「アリア長老、何か解ったか」

　彼女も呆けたようにギルガを見詰めている。

「どうかしたか？」

「いえ、あまりに早いお越しだったので」

「わしはじっとしてるのが嫌いなんだ」

　ギルガは尚も急かす。よほど退屈だったのだろう。この鉄の集落には物珍しいモノも多く、この世界

で手に入るものは大よそ手に入るのだが、彼はそう言ったモノに大して感心が無い。この点、ロンと正

反対の嗜好をしている。

「解りました。ともかくこちらへ」

　アリアは母親のような微笑を浮かべ、ギルガを奥へと通した。

　機材に囲まれた如何にもな場所に、例の剥き出しの機械が置かれている。どの機材も色んなモノを示

しているのだが、そう言った知識の少ないギルガには見てもさっぱり解らない。昔から機械の類とは肌

が合わない性質だった。

　リグ博士等が見れば、それだけで数多の情報を得られるに違い無く。解る者からすれば、非常に面白

い結果が出ているのだが。

「うーん、さっぱり解らん。説明してくれ、簡潔に」

　ギルガはしばらく見回した後、諦めたようにアリアに向けてそう言った。

「はい。簡単に言えば、この機械はエネルギー増幅機であり、制御装置でもあります」

「ん？今度は簡潔過ぎて解らん」

　ギルガは首を傾げた。アリアはそれを楽しそうに眺めながら続ける。

「解りやすく言えば、力を増しそれの向かう方向を操るという事ですね。ですから、決まった所に嵐を

止めておいたり出来る訳です。応用すれば、雷を好きな所に落としたり、局地地震を延々と起こしたり

出来る訳です。他にもキメラの特殊能力を増幅して、そのままキメラに言わば反射する事も可能かも知

れません」

「おう、なるほど。こう、キメラがブレスでも吐いてきたら。それをそのままそのキメラに打ち返せる

訳だな。だがそのブレスを逆に強める事も出来るわけか・・」

「はい、そんな感じに理解してもらえれば・・・」

　アリアは難しい顔をしながら頷いた。何にしても説明するのが簡単なようで難しい。

「おそらく先の嵐はこの装置の実験だったのでしょうね。そして推測するに、この機械で人類を滅ぼし

てしまうつもりなのでしょう」

「滅ぼすだと！？」

「はい、今は嵐を起こすくらいですが。もっと改良して大地震や連続して落雷を起こせば、全集落を壊

滅させる事が可能です。増幅源であるエネルギーはキメラならほぼ無限に起こす事が可能ですし。集落

のある大よその区画は判明されているのですから・・・」

　その言葉に二人とも黙り込んでしまった。

　そうならば、そう遠く無い未来に人類はあっけなく滅びてしまうかも知れない。いや、滅ぼされてし

まうだろう。

　アリアが沈黙を押しのけるように静かに口を開く。

「ですが・・・。先ほども言った通り、これを利用すればほぼ全てのキメラの特殊能力を防ぐ事が出来

ます。つまり、お互いにとって諸刃の剣なのです。ですから、私達はこの機械の改良と開発にこれから、

全ての労力を注ごうと思っています。まだ、人類から希望が消えた訳ではありません」

　ギルガはゆっくりと頷く。

「うむ。わしはそれを手伝えないが、わしに出来る事をやろう。わしにも考えがある、それを承認して

もらいたい」

「解りました。貴方の思うとおりにして下さい」

「ん、何も聞かなくて良いのか」

「はい、私は貴方を信頼していますから。それに説明下手なのも知ってますから」

　アリアはくすりと笑う。

「ハハ、流石に良く解ってるか。よし、わしに任せておけ」

　ギルガは豪快に一つ笑うと、来た時と同じように驚くべき速さで室内を出て行った。

　その年齢にしてまったく衰えが見えない。

「私も負けてられないわね。まだまだ若者なんだし」

　アリアはそれを見て、楽しそうに軽やかに笑った。そしてやるべき事をやる為に、すぐに研究員を呼

び研究に取り掛かった。そこにはギルガの愛刀のカスタマイズが終わったリグ博士の姿もあった。

　この老人は、年寄りをこき使うなと、ひどく仏頂面だったと言う。

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