心根はいつも高く

心機高点

　ギルガは長老宅を辞した後、まだ踏み慣れていない地を均すようにゆっくりと踏み締めながら件の地

へと向かった。所謂、訓練場へである。

「ほう、これは盛況な事だ」

　見た所、訓練は八割方終わっており、誰もが汗でぐっしょりと言った態だった。流石に青年団は付い

ていけないらしく、大きく息が上がっており、見ているこっちが疲れる程だ。

　ただ、その中でも二人の青年だけは気構えが違った。懸命にキャラバン員に付いて行こうとしている。

それが傍目にも良く解る。

「あの手の奴は使いもんになるかも知れんな」

　体のでかい方はそれなりに体力がありそうだが、どちらもまだまだ。だが、人間やる気さえあれば、

何処までも伸びる可能性が消えない。ギルガは人間、最後まで諦め無かった奴が勝ちだと思っている。

才能だとか環境だとかは問題では無い、諦めの悪い意地っ張りが常に志を遂げているのだ。

　かと言って、ただ諦めが悪いだけでもどうしようも無いのだが。

「ギルガさんではありませんか」

「おう、精がでるな」

　隊長代理らしい訓練指揮をしていたキャラバン員がこちらに気付き、慌てて走り寄って来た。見ただ

けで解ってくれるのだから楽なものだ。隊長職も面倒が多いのだが、こういう時も便利だとは思う。

「どうされたのですか、また何か・・・」

　隊長代理の表情に陰が走る。流石のキャラバン員とは言え、怪我人多数のこの時期にキメラと一戦交

えよう等と望むのは、よほどの馬鹿か間抜けだけだ。

　そう言えば、うちの馬鹿はちったあまともになったかな、とガリクの事を少し思い浮べた。まあ、リ

ックは丁寧に教える方だから上手く行くだろう、おそらくは・・・。

「ん、いや。ただこの集落が今の所一番手薄だからな」

「なるほど、そう言えば最近のキメラはこの近辺に現れる事が多いですね」

「ああ、だから訓練もしっかりしとかねえとな。このガキ共もちったあやれるようにならねえといけね

え。だから、わしが訓練をする事になった」

「え？」

　隊長代理の顔が見る見る青くなっていく。

　ギルガの訓練と言えば確かに効果があり、彼の率いるキャラバンは最強の精鋭揃いだとの声も高いの

だが。それ以上に大雑把で荒々しいので有名なのだ。

　ミルドも元ギルガ隊所属者であり、その訓練法を世襲してはいるのだが、常日頃からこんなものでは

無かったと事ある毎に言っている。なのでその恐怖感と言ってもいい感情は尚更強いのだろう。

　だが、当の本人はまるで気がつかないように。

「しばらくよろしく頼む」

　と気楽に言って、隊長代理を訓練側に加わらせた。

　そして自ら訓練者達の間を歩きながら、一人一人の力量を目で確かめた。これを参考に明日からの訓

練内容を変えるのだろう。荒々しくても、無茶でも無謀でも無い。ギルガにはギルガなりの理論があり、

それが他の隊長達とは大きく違うと言うただそれだけの事なのだ。

「おい、レイ。ギルガさんが訓練してくれるみたいだぞ」

「えッ、そりゃ付いてるね、ギル」

　訓練者がうろたえ、緊張を隠せない中。場違いに嬉しそうにしている者が二人。

　そう、レイとギルの二人である。ギルガが来訪した事で、彼等の望みへの近道を通れる可能性が生ま

れたのだから、それは嬉しいはずである。

　ただ、他の訓練者はその二人に不可思議な視線を向けている。

　所詮はどんな状況でも、どう思うかは人それぞれなのである。

　そして森の集落の穏やかな日々は、一部の者達は終わってしまったのであった。　　

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