キメラの内情

直進曲折

　キメラ王より使命を受けたガーゴイルは前森の集落へと偵察へ向かう途中、何者かの声を聴いた。

　それはうめくようにくぐもった声であり、如何にも苦しそうであった。

「同族の声か？？」

　気になったガーゴイルは様子を見る為にそちらへと向かった。

「ガホオオオオオオ、グホアアアアアアア」

　声はいよいよはっきりと聴こえて来る。

　ガーゴイルは目立たぬ為に大地に降り、翼を畳む。そして木々を抜け、そこで見たモノは。

「・・・・・無様な・・・」

　大地に喰われたように埋まっているミノタウロスの姿だった。巨大な牛頭だけが覗いて、その口から

悪寒を覚える程の醜い声を発している。両目には仲良く槍が突き刺さっていた。

「グホオオオオオオオオ」

　ミノタウロスは懇願するようにさらに鳴いた。

　この牛頭も一応ロキ博士の作品であり、その点だけで言えば上級種と言えなくもない。ただ、このタ

イプは元々重戦車のように目の前のものを叩き潰す為だけに創られており、知能は皆無と言っていい。

まだ金魚の方がましと言った感じだ。

　その為、そのパワーだけは認められているものの、キメラの中ですら蔑視されている。数の減った人

間相手には最早無用の長物と言っていい存在だ。現に今までにこのタイプはほとんど人間に滅せられて

いる。

「フン、人間の稚拙な策に破れるとは愚かな・・・」

　多分に漏れず、ガーゴイルも鼻先で嘲笑する以外、何の感情も湧かなかった。

　そして興味を無くし、その場から去ろうとした時ふと思い浮かんだ。

「こいつは騒ぎを起こすのなら、正に打って付けではないか」

　ガーゴイルは思わずにんまりとし、不気味な哄笑を上げた。

　元々他者を利用するのが大好きなのである。

「ガホオオオオ、グホオオオオオ」

　ミノタウロスは相変わらず無惨に鳴いている。同族を前にしてすら、その声に何の力も感じられない。

自分を助ける事などありえないと、この牛頭なりに理解しているのだろう。どんなに愚鈍な者でも、目

前の生死に関する事くらいは察する事が出来る、生命体の端くれとして。

　しかしその予想に反して、ガーゴイルはゆっくりとその両目の槍を引き抜き、こう言った。

「待っていろ、今助けてやる。辛かろう、苦しかろう、その恨み存分に晴らすが良い」

　そしてガーゴイルは静かに元来た方角へと飛び去って行った。薄い笑みを浮かべつつ。

「グホアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ！！！」

　ミノタウロスは歓喜の雄叫びを上げた。嬉しくて嬉しくてたまらない。死から救われた、何よりあの

同族は自分の恨みを晴らさせてくれると言う。

　これ以上嬉しい事があろうか。ミノタウロスは発狂しそうな程の勢いで、全てのものをその大きな口

から吐き出した。

　すでに傷口が塞がりつつある両目をギラギラと燃やしながら。

　その叫びはガーゴイルが戻るまで、恨みを乗せて幾度となく放たれたと言う。

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