二重の策

可燃性猛気

　ごとりと牛頭が落ちて転がった。

　次いで、後を追うように静かに残った身体がゆらりと前のめりに倒れ込む。

　地響きが響き渡った後、ぴくりとも動かなくなった。

　キメラにしても地球上に現存する生物達と作り的にはさほど差異は無い。頭部に脳があり、全身に指

令を与え。胸部に心臓があり、そこから全身へと血が行き渡っていく。

　即ちこのいずれかの活動を永遠に停止させる事が死なのである。

「梃子摺らせおって・・・・ふう・・・・」

　ギルガはゆっくりと息を吐いた。全身の緊張を具に吐き出すように、心底から。

　牛の頭と巨人の身体に別れたミノタウロスは、もうその種としての意味を失っており、それだけに人

を殺したような後味の悪さを感じさせる。思えば、それこそがこのキメラの真の特殊能力であるかも知

れない。

　どちらにしても、ギルガはキメラを屠る事に成功したのだ。

　隊員達は歓声を上げた。

「よし、さっさと引き上げるぞ」

　しかしギルガ自身はそれに応じる事無く、静かに帰還を命じた。

　そして彼らは来た時と同じく、少しだけ複雑な行路をとって去って行ったのである。この一種化物じ

みたスタミナもキャラバンとしての資格かも知れない。

「・・・・・誘い出すくらいの事も出来なかったとは・・・つくづく役立たずな」

　誰も居なくなった集落跡に静かに降り立った者がいる。

　キメラ・ガーゴイルである。

「しかし、捨て駒くらいにはなれたか・・・」

　そしてガーゴイルは薄笑いを浮かべながら、人間の跡を追ったのだった。

　その後ろに地響きと共に降り立ったモノを導きながら。

　飛行能力があれば追跡は容易い。特にギルガ達隊長の居ない別働隊の方ならば、それは如実に・・・。

　その頃、森の集落では。

「今こそ、日頃の鍛錬の成果を発揮する時だ。油断無く見張れ」

　レジトの指揮の元、厳重に警戒の最中であった。

　今回はギルガ隊が居るので、青年団達の表情にも少しの余裕が見える。表情は緊張に染まりながらも、

会話してる姿もちらほら見かけられる。

　その度に注意をしなければならないので、レジトとしては厄介なのだが。余裕がある事自体は悪くは

無い。ただ、それも程度によると言う訳である。

「うーん、レジトさん張り切ってるね」

「ああ、武装化を実現させた手前、何かしらの結果が欲しいのだろう。前回の時は散々だったからな」

　勿論警備の中にはレイ、ギル、そしてロンの姿もあった。この三人はレジトもワンセットと考えてい

るらしく、そして頼りにもしているのだろう、最前列に待機させられていた。まあ、三人とも危険は望

む所なのだが。

「ロン、何か見えるかい？」

「いえ、まだ何も・・・」

　レイの問いかけに目を凝らしつつロンが答えた。彼は一番目が良いので、見張りとしても重宝がられ

ている。ギルもかなりのものなのだが、ロンはそれを１馬身２馬身は飛び抜けているようだ。

「ギルガさん達、梃子摺っているのかな」

「どうかな」

　皆が待っているのは、勿論キメラの襲来ではなく、ギルガの凱旋だった。警戒と思っているのは、も

しかすれば現在レジトと、真面目に索敵しているロンだけかも知れない。

　ギルガ達が行軍して、もう幾許かの時が流れている。まさかギルガが敗れるとは思ってはいないが、

少し心配でもある。それさえ深刻とはかけ離れているのだが。

「あッ、帰って来たみたいです」

　ロンの声に一斉に二人は視線を前線へ向ける。

「何処だろ、見えないよ」

「んー・・・・・・おッ、あそこだ、レイ。あの三本立ってる木の側を」

「木が三本って何処にでも立ってるでしょ。まったく、目が良いのもそこまでくれば変だよ」

　レイはぶつぶつ言いながらキョロキョロと見渡す。彼の視力は並程度だった。

「あッ、ほんとだ。ギルガさんだ。ギル、旗、旗！」

　ギルとレイは慌てて帰還を知らせる旗を振った。陽光に透けながら、青々とした空にその旗は良く映

えた。そして住民達は皆、歓声を上げたのだった。

　しかし。

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