大地の王

冬の虫

　しかし、歓声は無惨に散る。

　笑顔で叢をがさがさ掻き分けながら戻って来た、ギルガの別働隊がロン達の正に目の前で血に染まっ

た。そして次第に地響きが近付いてくる。

「駄目だ、レイ。戦闘開始を告げろ！！」

「わ、解った」

　慌てふためきながら、レイが旗を持ち替え、手が抜ける程にそれを振った。だが、急激な指令の変化

は混乱を捲き起こすのみだった。何より、青年団は錬度が薄い。

「キ、キメラだっ！戦闘準備をしろ！！」

　レジトの叫びも虚しく、青年団員は状況を把握出来ない。

「くッ、俺達だけでも加勢に行くぞッ！」

　たまらずギルが見張り台から転がるように降り、別働隊の方へ飛び出した。それに反応したかのよう

にロンが即座に追う。

「こんなもん振ってる場合じゃない」

　レイも旗を投げ捨て、するすると降り、二人の後を追う。

　別働隊を襲っていたのは、蝙蝠の翼に薄気味悪い顔を持ったキメラ、ガーゴイルであった。自慢の爪

で手当たり次第に切裂いている。別働隊もギルガが居ない為に判断力が格段に落ちており、正気に返っ

て反撃を始めた時は。すでに半数が血煙に巻かれた後だった。

「クククククククッ」

　ガーゴイルは素早く動き、あっさりと銃弾をかわす。

「自慢の隊長がいなければ、そんなものか」

　そして嘲笑うように全員をあっさりと切裂いてしまった。

「くそッ！！」

　漸く辿り着いたギルが火の集落製のライフルを構え、虎の子の鉄鋼弾を撃ち出す。

「フフッ」

　しかしガーゴイルにはやはり掠りもしない。そして鋭い爪を振り上げた。

「これは・・・・キメラめがッ！！」

　そこへ後れてギルガ隊が現れた。とっさに撃ち出された銃弾が振り上げたガーゴイルの爪を吹き飛ば

す。

「むッ、早いお帰りで。フフフッ、ではこちらも交代を」

　ガーゴイルはよろけながらも、即座に翼を広げ大空へと駆け去って行く。一連の動作に無駄がなく、

あっと言う間に遥か彼方に飛んで行ってしまった。

「ちッ、わしも飛べれば・・・。おい、大丈夫か！？」

　ギルガは倒れ付している隊員の下へと駆け寄る。しかしどの隊員も見事に心臓を貫かれ、或いは首を

切裂かれており、三人はすでに事切れて居た。残る二人も表情にまるで力が無く、こうしている間にも

どんどん血が流れ落ちている。

「あ・・・・あが・・・・・」

「おい、しっかりしろ！！」

「が・・・・ぅ・・・・・」

　そして２、３呻き声らしきものを発し、命すらそれと共に抜け出たようにがくりと首が垂れ下がった。

もう、呼吸も無い。

「何と言う事だ・・・・まさか付けられるとは・・・」

　隊を更に分けたりせずに自分が率いていれば、とギルガに後悔の念が圧しかかる。集落を生かす為の

安全策が逆に仇になってしまったようだ。

　そしてそんな心情にも構わず地面は変わらず震えている。

「何だッ！？」

　そして全員が異変に気付いた。微細であった振動がいきなり地面が波打つように猛々しく吠え、視界

に濃い影が差す。

「気をつけろ！まだ何か居るぞ！」

　ギルガが叫び、背の長刀に手をかける。もう肉眼でもはっきりと見えた。いつの間にかすぐ前方に途

方も無く大きなモノが・・・。

「や、山が・・・・・」

　レイが震える指をそちらへ向ける。

　正に山だった。体高は６ｍは越えるだろう、それがのしのしとゆっくり近付いている。身体を揺する

度に振動が増し、酔う程に身体が揺さぶられる。

　青年団達の同様は頂点に達し、もはや何の意味も無く座り込んで震えている者。更には命乞いでもし

ているのか、神にでも祈っているのか、手を必至に擦り合せている者までいた。もうレジトの怒声など

聴こえもしていないだろう。

「ゴオオオオオオオオオオオオオ！！」

　その叫び声だけで、轟風が吹き荒れる。それほどに巨大だった、ミノタウロス等話にもならない程に。

そして見開かれた目は、深く紅かった。

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