史上最大の大雑把な作戦？

大脱走

　走り込んで目の前のドアを勢い良く開ける。

「リア、長老！早く避難して下さいッ！」

　そしてこの青年にしては珍しく大声を発した。ベッドに座っていた老人とその側に居た娘が吃驚した

顔を向ける。

「ロンよ。解っておるよ、今逃げようとしていたとこじゃ」

　老人、ラフィアス長老が穏やかに微笑む。この老人、常に余裕を忘れない事を信条としている。その

側の娘、リアも驚きながらも手は休めていない。その行動はいつもテキパキとしてしなやかだ。

「こっちは大丈夫だから、ミルドさんの手伝いに行ってあげて。」

　そして太陽のような明るい微笑みを浮かべて言った。なるほど、もう後は逃げるだけと言った様子だ。

「解った。気をつけて、リア。ん、ミルドさんは？」

「今、治療所に居るはずよ。ロンも気をつけて」

「解った」

　そして青年は来た時と同じように勢い良く外へ飛び出して行った。

「ほほ、ドアがどこかへ飛んで行ってしまったの」

　そう、ロンが現れた時に壊してしまっていたのだ。よほど慌てていたらしい。

「しかし、キメラが本気でかかってくると。人間とはこうも儚く脆いものか・・・・、解ってはおった

が・・・悲しいの」

　リアはしかしにっこりと微笑んだ。

「そんな事当たり前です。皆いつも覚悟して生きているのだから、せめて足手まといにならないように

テキパキ行動しないと」

「お、そうじゃの。まったく年とると悲観していかんわい」

　ラフィアスは額をつるりと撫でてから、すっと立ち上がり。

「まだまだ、若いもんには負けんぞい」

　そう言ってピュウっと駆け出し、リアは半ば呆れながら半分はおかしくて、口を押えながら後を追っ

た。視界は影に覆われている。真昼なのに薄暗く、涼しいが足元が危ない。彼女は足元へ目を凝らした

　余談ではあるが、ラフィアスは２０ｍ先で息切れしていたと言う。精神的には個人差があるので解ら

ないが。人間、肉体的には歳に勝てないらしい。

　

　一方殿を名乗り出たギルガの方は激戦かと思いきや、まだ様子を窺っているのみであった。ベヒーモ

スはぴくりとも動かない。死んでいるのでは、とか疑う程にじっと静かに佇んでいる。

　ただ、それを否定するように。相変わらず目は紅く灯っていたが。

「隊長、どういうつもりでしょう・・・」

　隊員の一人が油断無く砲身をベヒーモスに向けたまま呟いた。

「そんなもん、わしが聞きたいわい」

　ギルガも油断無く剣を構える。爪先に力を込め、いつでも跳べるように身構えもしている。

「フオオオオオオオオオオム！！」

　突風が吹き荒れた。

　しかし未だ目立った動きは無い。

「もしかすると・・・・」

　わしらが見えてないのでは、とギルガの脳裏に浮かんだ。勿論実際に目に映っていないと言う事では

無い。これだけ目の前で刀や銃をガチャガチャやっていたら、誰でも気付くだろう。

　ようするに、ただ集落を襲う事が目的では無いのでは、と言う事だ。何かを待っている、或いは探し

ているのかも知れない。

　まあ、それならそれで。

「こっちには好都合だ」

　なるべくなら、全員が避難し終わるまでこうして居たい。

「隊長、こちらから仕掛けましょうか」

「いや、余計な事はするな。ただ油断せず構えていろ、いつ来るか解らんぞ」

「ハッ」

　そう、いつでもこのキメラは自分達を滅する事が出来るのだ。しかも一瞬で。

　ギルガは目前の巨獣を眺めながら、首筋に生暖かいものを感じていた。　

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