蓄積の攻勢に

質量の脅威

「フオオオオオオオオオン！！」

　長刀の一閃にキメラが吠えた。

　鋭利過ぎる程に研ぎ澄まされた刀身が分厚い皮膚を切裂き、血飛沫が巻き起こる。しかしベヒーモス

の巨体から比べれば、それはあまりにも淡すぎ、儚すぎる程で如何にも攻撃としては頼りないように思

えるのだ。

　確かに、ダメージは与えているのだが。あまりにもでか過ぎる。しかも再生能力が驚く程早い。

「ちッ、まるで拉致があかねえか」

　ギルガは自分が蚊にでもなったのかのような錯覚を受けた。闇雲にぶんぶん飛び回っても、しょうが

あるまい。

「隊長、銃でも効果がほとんどありません」

　隊員達の打ち出す弾丸も同じ事だった。しかもキメラの特性上、鉄の塊でも身体に取り込んでしまう。

キメラ達の肉体には生物と静物の垣根が無いのだから。　

「グオオオオオオオオン！！！」

　地槍が次々に襲い掛かる。ベヒーモスを怒らせる分、単純な攻撃は逆効果にしかならないかも知れな

い。しかし、と言う事は再生してダメージは消えていくものの、痛みを感じていると言う事になる。

　問題は

「歩みを止められる程のダメージ量を生み出す手段が、こちらに無いって事だ」

　今はギルガ達は踏み潰す事にやっきになっている為、割りと緩やかに進んでいるが。それでもすでに

集落のど真ん中まで来ている。進行上に在った家屋は原型を止める事無く、無惨すぎる姿を晒していた。

「つあッ！！」

　駆け抜け様に長刀で真一文字に巨足を切裂く。

「グオオオオオオオン！！」

「うあッ！？」

　迫る地槍を長刀で払い、槍先を切り捨てたものの。まともにぶつかり、弾き飛ばされた。受身を取り、

片手で身体を跳ね上げる。そして長刀を振るう、振るう、振るう。

「ウオオオオオオオオオオン！！」

「ぎゃああああああああッ！！！！！？？」

　また一人隊員が犠牲になったようだ。銃器ごと押し潰される嫌な音が地鳴りの中でやけに聴こえて来

る。

「くそおおおおおおおおッ！！！」

　猛々しい苛立ち混じりの咆哮と共に刀身を叩き付ける。塞がる側から、何度も同じ場所を切裂いてい

く。流石のベヒーモスもこれにはたまらないらしく、執拗にギルガを狙い始めた。

「一点だ、一点を狙え！！」

　おそらく同じ個所を撃てと言う事なのだろう。隊員達はすぐさまそれを実行し始めた。貫通力のある

ライフルタイプの銃器に持ち替え、ピンポイント射撃を開始する。流石に百中とはいかないが、それで

も少なからずそれは効果を上げた。

「グオオオオオオオオン！！！」

「うおおおおおおおおおおおッ！！！！！」

　避け、斬り、避け、斬る。何度も何度もそれを繰り返す、ギルガ。まるで狂ったように長刀を振るう。

少しずつであるが巨足からの出血量が増してきたようだ。

　周辺の家屋達に多大な犠牲が出たが、それは止むを得まい。

　静けさの増した集落に、ギルガ達とキメラの咆哮だけが轟いていた。

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