決して相容れぬモノ達

不倶戴天

　何度刃を浴びせただろう。まるで大木を切り倒すかのように徐々にではあるが、少しずつ刃が傷口に

深く入り込んで行く。鋼のような白い骨も見え始めていた。

「もう少しだ。骨まで届けば」

　しかしそう鼓舞するギルガもすでに疲労が極みに達しているらしく、汗が出きった顔にも疲れが滲み

出ていた。しかしそれでも渾身の力で長刀を振るい続ける。

　隊員達も弾込めと回避作業に追われながらも必至に撃ち続けた。

「グオオオオオオオオン！！」

　心なしかベヒーモスの動きも鈍くなってきたように思える。こちらは疲労では無く、おそらくは痛み

からだったろうが。どちらも限界が近いと言う事には違いは無い。

「今だ、喰らいやがれ！！！」

　気合一閃、ギルガが長刀を思いっきり骨に突き刺し、次いで気合と共になぎ払った。

　そこへ巨体の体重が圧し掛かる。

「ウオオオオオオオオオン！！！？？」

　見る間に骨に入った罅が広がり、小気味の良い音を立てて完全に折れ曲がってしまった。

　これには巨体である分だけバランスが崩れ、ゆらりゆらりと振れた後、盛大な音を上げて横倒しに倒

れ込んだ。ベヒーモスは起き上がろうと無様にもがくが、如何せん一度倒れたら簡単には起き上がれな

い大きさだ。

「まだまだだッ！！」

　ギルガ達はそれで尚、執拗に傷ついた足を攻撃し続けた。

　いくら骨は治りが遅いとは言え、相手はキメラの中でも群を抜いた自己治癒能力を持ち。そしてその

四肢からは脅威の特殊能力、地震を起こすからだ。足が一本でも失われれば、驚く程にその力は落ちる。

そして素早さも。

　隊員達もここぞとばかりに連射する。倒れている為に、圧倒的に狙いやすく反撃される心配も少ない。

「グオオオオオオオオオオム！！」

　しかしベヒーモスもさる者で、目を更に輝かせながら全身にぐぐっと力を入れる。その度に傷口から

血が噴出すが意に介せず咆哮と共に身体を起こした。

「ちッ、片足を捨てやがったか」

　ギルガの言うように、ベヒーモスは傷ついた片足に自ら止めをさすように、ざくりと地面に突き立て

そのままゆっくりと立ち上がった。

「下がれ！」

「ハッ！」

　ギルガの命により、静かに隊員達も距離を取る。ベヒーモスは起き上がりはしたが、如何にも動きが

衰えており、取り合えずそれだけで満足する事にした。が、もう手持ちの弾薬も八割方使い果たしてお

り、決定打も見出せない。

「こりゃあ、いよいよ逃げるしか無いか・・・・」

　そうギルガが思い始めたその時。俄かに場に変化が起こった。

　いや、何が変わった訳でも無いのだが。ただ空気が一段と重くなったような。

「む！？」

　上を睨み付けた時、原因が判明した。それはベヒーモスの殺気だった。先ほどまでのとはまた違った、

そう忌むべき者、仇を見たような怨念じみたモノがその紅い目に宿り始めている。

　そしてその視線の先にはギルガ達では無く。

「・・・・・お前は・・」

　そこに居たのは一人の青年だった。右手に奇妙な棒状のモノを握り締めている。確か名前は・・・

「・・・・・・ロン？」

　確かにそんな名前だったはずだ。

「何をしているんだ、速く逃げるんだ！！」

　そう隊員が叫ぶ声も聴こえた風も無く。ただベヒーモスの憎しみと恨みを一身に浴びているが如く、

静かにそこに佇んでいた。

「隊長！」

「まて、様子がおかしい」

　ギルガは思わず青年の方へ飛び出そうとする隊員を片手で抑えた。自分の中の何かが黙って見ていろ

とそう告げる。

　その隊員も不承不承従った。ギルガに全幅の信頼を置いているからこそ、聞けた事だったろう。キメ

ラの前に一住民を立たせて放っておく等、キャラバンとして、否、人として許される事ではあるまい。

「フウウウウウウウ」

　ベヒーモスの声も威嚇するような、それでいて畏れているようなものに変わりつつあった。

　そしてそれを真っ向から受ける青年も、静かに変わり始めていたのである。そう静かに。　

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