美しい程に巻き起こる

たおやかな振動

　目に見えた変化が訪れたのは、幾許かの空白の後だった。ロンの持つ棒が不思議な淡い光を放ち始め、

ゆっくりと何もかもが変わっていく。

「対局地壊滅・・・・・ゲイボルグ」

　何事かロンが囁いたと思われた瞬間、その瞬間だった明らかな変化が起こったのは。

　棒状のモノの先がうぐうごと蠢き、大型の長大な刀身が現れたのだ。そして研ぎ澄まされるように伸

び、柄もそれに合わせるかのように肥大し、一つの大槍の姿へと転化する。十字型の形状をしており、

その長さは２ｍにも及ぶだろう。

「・・・・・・・・・・」

　そして試し斬りでもするかのように、その大槍をヒュンヒュンとまるで枯枝でも振り回すかのように

何度も振るう。

「フウウウウウウオオオオオオ！！」

　対するベヒーモスも覚悟を決めたかのように声を張り上げ、傷ついている足をものともせずに振動を

撒き散らしながら突進し。そして傷ついた足を振り上げ、ロンへと振り下ろした。

「危ないッ！！」

　隊員が叫んだ。しかしその後見た光景は想像を、いや常識とかそう言う全てのモノを全否定した光景

であった。ギルガも呆然と息を呑む。

「・・・・・・・・・・」

　あっさりと受け止めたのだ、あの巨大な足を。数トンはあろうと言う、ベヒーモスの巨足を、しかも

片腕で持った槍で。

「グオオオオオオオオン！！」

　痛みも消えたように、ベヒーモスは更に巨足に力を込めるがまるでびくともしない。それどころか、

一振りで軽々と弾き飛ばされてしまった。よろよろと後退する度に、大地が激しく揺れる。

　だが、その揺らぎもロンには何の影響も与えないようだ。

「・・・・・・・・・」

　相変わらず無言で、静かにベヒーモスへと歩き寄る。

「グオオオオオオオン！！」

　体制を立て直し、今度は大地に足を叩きつけ、幾本もの地槍を生み出す。

「・・・・・・・・」

　しかしロンの一振りで見事に全てが霧散する。そして、大槍を振り上げ、片足へと突き下ろした。

「グオオオオオオオオオオオオオオオン！！？？？」

　その槍先は、あれほど苦労したギルガ達を嘲笑うかのようにベヒーモスの皮膚を容易く貫き、骨を砕

き、その圧力で数ｍのクレーター状のへ込みを生み出した。まるで、本当に隕石でも衝突したのかと思

える程にべっこりと沈んでいる。

　そして骨の砕け折れる音が再び響いた。ベヒーモスが前のめりに倒れ込む。

「馬鹿な・・・・・」

　ギルガ達の頭の中は、その一言に支配されている。幻でも見ているようだ。しかし実際に振動がここ

まで伝わって来ている。

「フウウウウウウウ！！」

　しかしベヒーモスは先ほどのように無様に倒れ伏さず、ロンを睨み付けながら必至に四足を暴れ始め

た。何度も何度も振り上げては叩き付ける。

「いかん、地震を起こすつもりだッ！！」

　ギルガが珍しく悲鳴のように叫んだ。四足で生み出す滑稽にも見えるこのダンスこそ、地底に蓄えら

れている膨大なエネルギーを呼び覚ます、破滅の振動。

　大地が盛り上がる程に震え始めた。その振動の凄まじさで木々が根元から浮き上がり、剥がれ落ちる。

「広い所へ移動しろ！！」

　ギルガの悲愴の叫びが辺りに木霊した。

　巨大なうねりはすぐそこまで来ている。そして、大地が目覚めた。　

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