天上天下唯我独尊

揺るがす唸り

　大気が怯えている。

　この星が出来て以来、ずっと共に寄り添っていた大地の怒りを一身に感じて。

　そしてその怒りが伝染するように、震えながら。

「来るぞッ！」

　ギルガは地に伏せた。

　その瞬間、正に世界が揺れた。大地は断続的に波打ち、立っている所かこうして伏していてすら、平

衡感覚が失われ、吐き気が込上げて来る。何度も何度も天地が逆転し、そこに在って無きが如く精神が

覚束無い。

　まるで球体の中で転げまわるボールのように、何もかもが不鮮明で、まったく捉え切れない。

「た、隊長おおおおおおおおおッ！！？？？」

　ギリギリと引き裂くような轟音が響き、幾条もの地割れの一つに隊員の一人が落ちていくのが見えた。

しかしそれでも、どうしようもない。手も届かず、視界も届かない。

　ギルガに出来る事と言えば、それを虚しく心に刻み付ける事だけであった。

　あれだけいたギルガ隊もこれでリック隊に回したのを除けば僅か二人。キメラの恐ろしさを改めてま

ざまざと見せ付けられた気がした。例えるなら、大自然の脅威と等価なのだ、奴等の力は。

「くッ、わしとした事がなんと言う様か！」

　悔しさに噛み締めた奥歯がギシギシと悲鳴をあげる。

「小僧はッ？」

　突然思い立ち、ロンの姿を必至に探す。目がぐるぐると回り、視界も定まらないが。それでも必至に

彼の姿を探した。もし、自分の見た先ほどの光景が事実であるなら、彼こそが人類の希望となりえるだ

ろう。そう、ギルガすら遥かに越えるあの力があれば。例え何がどうであろうと。

「このくそったれがッ！！」

　ギルガは自らの拳を地面に突き刺すように叩きつけ、無理矢理自分の身体を大地から引き剥がした。

そして握り締めていた長刀を大地に突き刺した。こうしていれば、少なくともどちらが下なのかは解る。

「おい、大丈夫かッ！？」

　視線の彼方に辛うじてロンの姿が見えたような気がする。今もブレ続けている視界の所為で、こう断

言出来る自信は無いが。それに驚くべき事に、立っているではないか。そのまま、その場所で。

　それが尚更自信を奪い去る。もう何が何なのか、いや何がとかそれ以前のモノすら解らない。一体、

なんなのだこれは。

「くッ！」

　その時、最大の振動が襲い掛かってきた。

　最早目も開けてられない程に、脳がシェイクされているかのような痛みが頭蓋を覆う。

　そして恐ろしい大音響と共に、大地が盛り上がった。まるで山が生まれたように捲り上がり、四方か

らロンの居たと認識した場所に叩きつけた。そしてその勢いで砕け散り、その音が衝撃となって走り抜

けた後。それを合図にしたかのように振動がぴたりと引いて行った。

　跡には今までの分を取り戻すかのような静けさが残った。

「グオオオオオオオオオオオン！！！」

　そして上げたのだ。

　ベヒーモスが勝鬨の声を。　

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