一陣の暗風

乱風

　噎せ返るような熱気の渦中に、座り込むように項垂れた青年が居る。

　手にした槍には薄っすらと光片が散ばっており、そっと先程の面影を忍ばせていた。

「何だお前は・・・・」

　ギルガはその問いを反芻するように何度も何度も飲み込んだ。よく解らないが、それは言ってはなら

ない事である気がしたから。彼の存在を否定してしまうような・・・。

　しかし。

「お前が・・・・やったんだしな」

　それは紛れも無い事実だった。目の前でしっかりこの両の眼で見てしまったのだから。

　晴れて来た熱気を押しのけるように青年に近付く。もう彼には光の欠片も無く、先程までの圧迫感も

力強さも感じない。いつものロンであった。槍もいつもの棒に戻っている。

「それもキメラ鋼じゃねえか・・・」

　姿を変える、成長する、適応する。この三つの要素を持つ金属等、この世に一つしかない。それはギ

ルガの持つ長刀と同質の、或いはそれを遥かに超えた静のキメラ、キメラ鋼。

「だが、これほどの力を持つキメラ鋼。そしてそれを使える人間何て・・・・。キメラバスターどころ

の騒ぎじゃねえな、これは」

　ギルガはぽりぽりと頭を掻いた。自分の持つ長刀の力にも驚かされたが、これはそれ所の話では無い

だろう。ベヒーモスの巨体を一刀両断とは・・・、まるで夢を見ているようだった。大戦中もここまで

凄い力を見たのは、あのミドガルズオルムくらいか。世界を荒野に変えた神威の一撃。

「おい、大丈夫かお前ら！」

　隊員達はもぞもぞと動いている。あの衝撃で飛んで来た瓦礫何かを払っているのだろう、しきりに服

をパタパタと叩いている姿が見えた。

「おい、小僧！」

　今度は目の前の青年に呼びかけてみる。後、１，２ｍ先と言った距離だが、これ以上は熱気が凄くて

近寄れない。まつげがパリパリと乾いていくのを感じた。

「小僧！」

　しかし二度呼びかけても、青年は項垂れたままだった。ぐったりと脱力しているように。

「くッ、この熱気さえ冷めれば」

　手を振って風を送って見るが、焼け石に水にもならない。

「水、水はねえのかッ！」

「駄目です、井戸も潰されていて解りません」

「ちッ、仕方ねえ。ここで待つしかねえな」

　ギルガはその場にどっかと腰を下ろした。

　それにしても、散々にやられたものだ。最早建っている建物など柱一本も無く、木々は倒れ、大地は

引き裂かれたように無数の地割れが走っている。

　そんな傷痕が視界の彼方まで続く。この分では近くの集落まで被害が出ているかも知れない。

「ま、命があるだけめっけもんだろうさ」

　そして暫し目を瞑り、死した部下達に哀悼の意を表す。

「よし、そろそろ行けるだろう」

　そう思って立ち上がった時だった。

　暗い風が目の前を通り過ぎた、そんな風に見えた。それはロンを掴み、そのまま高く飛翔する。

「てめえはッ！まだ居やがったのか、待ちやがれ！！」

「フン、吠えるがいい人間が」

　嘲笑うかのように暗い風、ガーゴイルはロンと共に疾空して飛び去って行った。

　ギルガと隊員達は、ただそれを黙って見ているしかなかった。

「くそおおおおおおおおおおッ！！！」

　そして両腕と共に振り上げられたギルガの叫びは、虚しくその空に木霊したと言う。　

BACK・ EXIT・ NEXT