河も全てを流すとは限らない

沈痛河

　胸に暗いものを秘めながらも、森の集落の住民達は川の集落へと向かう。

　大所帯だけにキメラに発見される事に怯えていたのだが、幸い何事も無く時間は過ぎて行った。立ち

直ったのか、或いは開き直ってしまったのか、談笑の声もちらほらと聴こえる。もうすぐ川の集落に着

くと言う安心感もあるだろう。

　しかしロンと関わりが深かった者達、特にリアとミルドは見る方が気の毒になるほど、目に見えて元

気が無かった。この時代、誰しも不意の別れ等には慣れてはいるのだが。かと言って、慣れれば平気に

なると言うものでも無いのだろう。

　先陣をきるギルガもずっと考え込むように終始顰め面で歩いている。まるで話しに聞いた鬼瓦のよう

だ。これにも魔除けの効果があると良いですがね、とリックが居たなら言っていただろう。

「隊長、如何されましたか？」

　この顔で側に居られるのを堪り兼ねた隊員の一人が問い掛けたが。

「・・・・・・・」

　ギルガは何の反応もしない。聴こえてさえいるか疑問だった。

「ふう・・・・」

　隊員は諦めたように溜息を付いて、再び静かに歩き始めた。

　ギルガの頭の中に居るのもロンである。しかし、リアやミルドとは毛色が違っていた。つまりは心配

では無く、種々様々な疑問なのである。

　まず第一にあの青年は何者なのか。第二に何故攫われたのか、その目的は？。

　彼には何一つ解らないのである。そして、おそらく誰にも解らないだろう。解るのはキメラ達しかい

まい。

　どれだけ考えても結論が同じでしか無いのだから、止めれば良いのだが。性分なのか、納得がいくま

で考え込む。そして何を納得したいのかも自分でよく解らない。

　そうこうする間に目前に大河が出現した。この大陸を縦横無尽に走る大河である。昔ならアマゾン河

の巨大版とでも言えば感じが伝わったかも知れない。

　正式な名称も無く、ただ大河とだけ呼ばれている。先の大戦で地形も散々に変化しており、大戦以前

の名称など意味を持たなくなっている。

「隊長、このまま渡河しますか。今なら水量もそう多くないですが」

「ん、ああそうだな。さっさと渡っちまうか」

　住民達にも疲労が濃いが、ここで野営して、その間に雨でも降れば身動きが取れなくなってしまう。

　ギルガは目前にやる事が出来れば、悩みを一時棚上げしてそちらに専念する事が出来る。この一種の

能力はキャラバン隊長を務める者に多く見受けられる。便利と言えばそうだが、あまり持って幸せとも

思えない。

「流れも緩い、泳ぎに自信があるやつは泳げ。自信の無えやつはわしらについて来い」

　そう言うとギルガ達、キャラバン隊は浅い個所を選んで渡河し始めた。それに泳ぎに自信の無い者達

が一列になって付いて行く。何しろ川幅が細い所でも対岸まで１００ｍはゆうにあり、その上滑りやす

い。ゆっくりゆっくりと進んで行く。

　なるべく日が落ち始める後一時間くらいで渡りきってしまいたいが、皆慣れていないのでどうなるか

は解らない。

　心配なのは水棲キメラの事だった。匂いは流れに乗る、ぐずぐずしていると気付かれないとも限らな

い。

　住民達はただ自らの幸運を天に祈るのみだった。

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