刹那の魂

川の集落

　幸い何事も無く渡河する事が出来た。

　活発だった最近の一連のキメラ騒ぎから考えると、不思議な程静かになっているとも言える。ギルガ

も特に指令があらず、森の集落よりの避難民が落ち着けばキャラバンの仕事に戻る事になっている。

「脅威となる要素が消えたと言う事か・・・・」

　渡河から一日経ち、川の集落の長老から与えられた一室でギルガはぼんやりと考える。

　周りには誰もいない。同居人である二人までに減ったギルガ隊員達は投網漁の手伝いに行っているし、

来客者は少なく無いが、昼間は漁等でまったく言って良い程訪れる事は無い。避難民達もそれぞれの事

で精一杯と言った態だ。

　だから彼はここで一人物思いに耽っている。

「と言う事はだ・・・・。やはりキメラの脅威とは・・・あの小僧になるか・・・、うーむ」

　立ち上がり、窓際へ行く。

　川の集落と言っても、大河に面している訳ではなく。増水等による災害を防ぐ為に、少し高くなった

所に造られている。その為、大河を見下ろす光景になる訳だが、この部屋は反対方面にある為大河は見

えない。代わりに見える木々が森の集落の事を思い出させた。

「とすれば、やる事は一つか」

　ギルガは携帯通信機を取り出し、鉄の集落へと向けた。

　それから初めに流れる雑音電波には如何にも慣れない。

　森の集落からの避難民の大半は未だ精神的に癒えず、室内で静かに休養を取っているのだが。中には

漁を手伝っている者もいる。ギルガ隊の二名以外に、レイ、ギル、そしてリアとミルドと言った面々だ。

　だからと言って別にこの者達が精神的に完全復帰したと言う事でもなく、ただ動いている方が楽だか

らと言った感情も大きく影響しているようだ。

　或いはただでお世話になる訳にはいかないと言う、そう言った感情も入っているのかも知れないが。

　ただ、表面上は元気にやっているようだ。

「ギル、そっち！そっちに大物が行ったよ！」

「任せろ！とあッ！」

「何やってんの、逃げちゃったよ！」

「くそう、難しいな」

　中でもこの二人が騒がしい。そのくせ成果はまったくと言って良いから、もう笑い話にしかならない。

現に今も川の集落の青年達にくすくすと笑われていたりしている。特にギルのへっぴり腰がいけない。

「ギルってば、こう言う時って結構不器用だよね」

　リアも一緒になって河岸で笑っている。彼女達は洗濯をしているのだ。

「ほんとね。身体が大きいから小回りがきかないのかしら」

　ミルドも洗濯班に居て、主に洗い終わった物を干す仕事をしている。まだ両腕が激しい運動には耐え

られないからだ。

「まったく僕に貸してみせてよ」

「解ったよ、レイ」

「良いかい、こうやるんだ。やあッ！」

　レイから放たれた投網は空に綺麗な放物線を描き、そして確実に流れてきた枯枝を捕らえた。

「よッ、レイの枝獲り名人」

「う、うるさいなッ」

　真っ赤になるレイ。

　それを見て笑う女達。

　そんな風に暮れていく一日。無理矢理にも思える平穏の中で、彼等は何を考えていたのだろうか。そ

れは未だ誰にも解らない。

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