空っぽの聖櫃

空闇

　薄暗い。辛うじて感じられるのはドアの隙間から篭れ出る光の欠片。

　四方は闇に囲われ、どこなのか検討も付かない。

　ただ、不思議と落ち着く気がした。不自然な安らぎを覚えるのは何故だろう。

「目覚めたか」

　今まで気付かなかったが目前に薄暗い影があった。

　目が慣れてくると、それに二つの紅い目と一対の翼が繋がる。

　その目を見ると、内に不思議な感情が巻き起こってくる。いや、感情ではない。もっと絶対的な何か

が。そして右手の棒がいつも反応して震える。その役目を果たす為に。

　しかし何故か今は・・・。

「フフ、無理です。今はそれは起動しない」

　そう、ぴくりとも動こうとしない。まるで眠ったように。おかしな事だ、兵器が眠る等と・・・。

　そしてそれを嘲笑う顔がある。

「ま、良く考える事だ。ミドガルズオルム様もお前の能力だけは買っておられる」

　起動しないが、それは関係無い。自分の役目はキメラを滅ぼす事のみ。

　手にした棒を振るう。

　しかし、乾いた響きと共にそれはキメラの眼前で止まってしまった。これも初めて気付いたが、どう

やら鉄柱のようなもので自分は囲まれているらしい。兵器も起動しなければ、鉄屑も切れない。

　だがそんな事は関係無い。我が使命は・・・・。

「フフ、起動しなくとも、プログラムされた事は実行し続けるか。流石は神威の兵器」

　クックッと乾いた笑いをキメラは洩らす。

　それに被さるように、何度も金属音が虚しく室内に響いた。

「ククク、愚かな兵器が。せいぜい足掻いてみるが良い」

　そして静かに気配が消えた。

　金属音も消え、再び静寂が訪れる。

　王の眼前にも切裂くような静寂がある。

　それは先程のモノとは違い、多分に重苦しく、吐き潰されそうなモノであったが。

「奴めはどうしておる・・・」

「はッ、システムの起動は抑えましたが。未だそのプログラムは動いておるようで」

「そうか・・・ご苦労」

「ハッ」

　ガーゴイルも先程までの嘲笑は消え失せ、ただただ畏れ入っている。身の震えを抑える事が出来ない

のが不安だ。王は雑音を嫌われる。

　王は暫く考えるようにしてから、静かに言った。

「後はオーディンに任せると伝えよ」

「ハッ。しかし王がおられなければ・・・」

「我は眠りに入らねばならぬ。・・・・任せたぞ」

「ハハッ」

　王は意見も反意も求めていない。ガーゴイルは皮膚の一枚一枚が凍り付くような恐怖で、次の言葉を

待った。

　が、王はそれ以上何も言わず、動かず、静かに存在するのみ。

　ガーゴイルは砕け散りそうな心臓を辛うじて動かしながら、ゆっくりと神経質なまでに静かにその場

を去ったのだった。

「ケルベロス、ベヒーモス、惜しくは無いが愚かな事よ・・・。ロンギヌス・・・あくまで我等に刃向

うか・・・・救われぬ道具よ・・・」

　身震い一つで世界を揺らし、何事も無かったように王は眠りに入る。

　その時まで力を残しておかねばならない。

　そう、必ず訪れるその時まで・・・・。

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