道を切り開け

唯一邁進

　川の集落へ逃げ込んでから、三日目の朝。

　暗く塞ぎ込むばかりだった森からの避難民達にも、ようやくちらほら笑顔が見え始め、外出する姿も

見受けられた。元々この時代の人間は打たれ強く出来ている。

　そして知っている。進まなければ、道も見えないと言う事を。

　青年団等は積極的に漁を手伝い。ラフィアス、レジトは森の集落再建の計画を練り始めている。ミル

ドはようやく満足に動けるようになった隊員達に、早速訓練を付けている。リア何かはそれをサポート

する為に家事に走り回っているようだ。

　各々が出来る事を出来るだけ。ただ、そこには常に何かを紛らわすかのような、言わば必至さが付き

纏い。それが少しだけその光景を哀しく見せているのだが。

「鉄の集落へ行く」

　ギルガがそう告げたのは、そんな時だった。

　森の避難民達だけでなく、川の集落の住民達も、ギルガが居ると言うだけで大きな安心感を得られ、

その為に何とか引きとめようとしたのだが、彼はいつものように決断したら一歩も譲らなかった。

　川の集落の長老ルシクもせめて皆が完全に落ち着くまではと願ったのだが、急がねばならないと頑と

刎ねつけられてしまった。

「事は一刻を争う。腕に覚えのあるものは付いて来い！」

　それだけを言ってさっさと旅支度へ取り掛かったのである。

　付いて来い等と言うのは普段の彼からは信じられない事であるが、如何にギルガであっても隊員が二

人だけでは心許無かったのだろう。

　ミルド隊から回復した者二人が志願し、なんとレイとギルもこれに志願した。ミルドも行きたがった

のだが、未だ握力が完全に戻っておらず、ギルガは静養しろとこれをきっぱりと断った。

　ともかく総勢７名となったギルガ隊は、その翌日に慌しく旅立ったのだった。

「リア、心配そうな顔してたね」

　旅立ってから暫くして、レイがギルにそう洩らした。

「ああ、頑張って心配無いってとこを見せないとな」

　ギルが手渡された弁当を見ながら答える。

　二人は決意した時からずっと、人知れずトレーニングを積んで来た。毎朝走り、暇を見付けては筋力

トレーニングを繰り返す。その成果が出ているのだろう、キャラバン隊の強行軍にも何とか付いて行け

ていた。

「ロンを早く助け出してやらないとな」

「そうだね、ギル」

　彼等が志願したのは一つはその為だった。だいたいの事はギルガから聞いている。何故わざわざ攫わ

れたのかも、ケルベロスとの一件があるから二人には何となく解る。そしてロンが生きていると言う事

も。

　ギルガが何をやるのかはまだ詳しくは解らない。だけど、ギルガもロンを助けたいと言った。二人に

はそれを聞けばそれだけで充分だったのだ。後はただ進むのみ。道はギルガが切り開いてくれるだろう。

　二人は頷き合うと、更に両足へ力を込めた。足手まといにだけはならない、そんな覚悟を身に秘めな

がら。

　今、ギルガ隊は川の集落の燐集である砂の集落を目指している。何でも、そこにギルガ分隊であるリ

ック隊が訪れるらしい。そこでギルガは武器と人員の補充をするつもりなのだ。

　キャラバンはその行程で目ぼしい人物を見付けては欠けた人員を補充する仕組みになっている。おそ

らく今頃は元の人数くらいになっているはずだ。すでにギルガ本隊の人員が二人だけになっている事も

知らされているはずだから。

　ともかくも、ギルガ達は砂の集落へ向かっている。

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